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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
May / 04 Sat 07:54 ×
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December / 28 Mon 16:13 ×
October / 29 Mon 00:13 ×

私は人付き合いがそんなに下手な人間ではない。
そこそこ愛嬌があり、誰とでもすぐ友達になれる。

けれど、そこからがいつも問題だった。

私は人の視線が気になり、いつも人の顔色ばかりうかがっていた。

親しくなった人たちから、私は嫌われるのが怖い。

だから、親しくなると私は、友達の顔をうかがった。

彼らの些細な言葉、行動を私は、いつも真に受けていた。

そこに彼らの本心が隠れていると思っているからだ。

私はそんなことでいつも傷つき、人知れず泣いたりした。

誰もそんな私には気づかない。
 


それはツアーの日だった。

親しい友達に一ヶ月前から、私はツアーに誘われていた。

私の家は厳しく、それに一人でいるのが気が楽な私は、ツアーに参加したくなかった。

けれど、皆、熱心に、それこそ本当、毎日、私をツアーに誘うのだ。

そのツアーは、大学の英語学科が開催するツアーで、外国人と一緒に日本の田舎に遊びに行く一泊二日の旅だ。

私の友達が丁度、英語学科の生徒で開催者の一人でもあった。

彼らの熱心さに結局私は折れ、母を必死に説得し、なんとか参加することができた。

その時の彼らの喜びようといったら…皆、とても喜んでいたものだ。

私もそんな彼らの笑顔が見れて、嬉しくて一緒に笑った。


 
ツアーの集合場所は大学だった。

私は朝から早起きし、バッグの中身を準備し、大学に向かった。

ちょうどの時間についたので、そのまま皆と一緒に、バスに乗り込んだ。

ツアー参加者は、全部で六十人ほどだった。意外にも多く集まり私はびっくりした。

遅刻する人間が何人かいて、おかげでバスの出発は予定より三十分遅れた。

バスの中では、ビンゴゲームなどをして遊んだ。

先にレストランで昼食をとり、目的地の田舎について、皆、自然を満喫した。

そこまでは私もそこそこ楽しめた。

けれど、夜からが問題だった。

私たちが泊まっている場所は、その田舎で一番綺麗な旅館である。

食事もおいしく、部屋一つに温泉があるという豪華さである。

ただしそれは、一番高い部屋のことだ。

私は運良く、ビンゴゲームでその部屋を当て、皆に羨ましがられた。

夕食が終わった後、皆で飲み会を開催することになった。

私はお酒が飲めないので、飲み会には参加したくなかった。

なぜなら、私はお酒を飲むと、すぐ吐いてしまうからだ。

けれど皆、私をほぼ強制的に参加させた。

皆が楽しくお酒を飲む中、私は一人でウーロン茶を飲んでいた。

私だけ取り残された感じがして、とても寂しかった。

けれど、皆、そんな私に気づかず、わいわいとお酒を飲んでいた。

誰も私には話しかけてこない、傍にいてくれない。

皆、後輩や先輩方の下に行き、私と言う存在を感じていないようだった。

あまりの惨めさと寂しさに私は、一人部屋を抜け出し、自分の部屋で持ってきた小説を読んだ。

ツアーに小説なんか持って来るつもりはなかった。

ただ、買った小説をまだ読んでいないから、もしかしたら読めるかもしれないと思ったのだ。

けれど、今は小説に救われた。

もし、小説がなかったら、私は何をしてれば良かったのだろう。

一人であのつまらない宴会にいなければならなかったのだろうか。

そう考えると、私はあまりの惨めさに泣けてきた。

家に帰りたいと切実に願った。


 
気づいたら、私は寝ていた。

起きた時はもう朝で、時計を見たら、もう少しで朝食の時間だった。

私は急いで身支度を整え、食堂に向かった。

そこには数人のツアー参加者しかいなかった。

皆、昨日の酒で酔いつぶれ、まだ起きていないのだ。

私は一人で食事をとった。

その状況がまるで、私の心のようにとても寂しいものだった。

皆、昨日の宴会の余韻でぐっすり眠っているのだろう。

私はそんな中にも入れず、皆と楽しむこともできず、一人取り残されている。

なぜ、こんなところに来たんだろう。

食事中は、ずっとそれだけ考えていた。

私なんて本当は必要ない。

私が参加した意味は一体何なんだろう。

皆にとって私は一体…

そう考えていくと、どんどん悲しい気持ちになり、私は泣きそうになった。

急いで朝食をすませ、私は部屋に戻った。

そこで私は人知れず泣いた。

その間、私の携帯は鳴らないままだった。

 

その後のツアーはまったく楽しめなかった。

皆、私に話しかけてこなかった。

おのおのが自分のことでいっぱいで楽しんでいた。

私が暗いせいなのかもしれないが、なぜ、ここまで、皆、私を放置するのだろう。

本当は皆、私が嫌いなのではないだろうか。

そうでなければ、皆、こんなことしない。

私はこの状況がある種、一種のいじめのように思えてきた。

けれど、本人達は、まったくそんなことに気づいていないのだ。

彼らは新しい友達を作ることで大変なのだ。

私と言う存在を忘れて。

友達なんて本当はいなかったんだ。

誰も私の事を 気にかけていないのだ。

その状況が余計、私を暗くした。

けれど、私もそれなりに頑張って笑顔を作り、皆に話しかけたりした。

だが、友達の一人が私の暗い態度が気に障ったのか、不機嫌だった。

そのせいで、私は余計、家に帰りたいと思った。

私は、帰りのバスでは泣いていた。

けれど、誰一人気づいてくれなかった。

たとえ、気づいたとしても彼らは、何もしてくれないだろう。

何も。


 
家に着いたとき、私は本当に嬉しくて、泣いた。

このツアーで、私はずっと泣いてばかりだ。

悲しくて泣いているのだ。

私の価値がわかったような気がした。

大して大切な存在ではない、と直接言われているような気がした。
 
明日から、また彼らに会う。

彼らは口々に「昨日のツアーは、楽しかったね」と話すだろう。

私のことなんて気にかけず、泣いていたことなんて知らず。

結局、私は彼らの友達にはなれなかったのだ。

彼らにとって私は、ペットかなんかなのだろう。

信頼していたものに裏切られた感じがした。
 


辛い時、私はいつも髪を切った。

女は失恋すると、髪を切るとよく言われている。

その理由は、私的に、髪を切ると新しい自分になれるからだと思う。

私は今の自分が嫌いな時に、よく髪を切る。

新しい自分になりたい時に、髪を切る。

けれど先月、私は失恋して髪を切った。

私にとって、いや、女にとって、髪を切るというのは、自分の心を整理させるための、儀式のようなものなのだ。

けれど、今、自分でわかるほど、私は情緒不安定だ。

私は一人ぼっちだ。

一人なのだ。

沢山の人に囲まれているのに、この孤独感。

なんて恐ろしいものなんだろう。

人が怖い。

友達だと思っていたこの人達が怖い。

強い自分になりたい。新しい自分になりたい。

けれど、もう切る髪がない。

儀式ができない。

手っ取り早く、気持ちを切り替えるための儀式ができない。

何を切ればいいのだろう。

一体、何を切れば。


 
不意に目に入った左手首。

白い肌にうっすらと青い血管が浮き出ている。
 


ああ、まだ切るものはある。

手首を軽く切ろう。

うっすらと切ってみよう。

世間ではリスカと呼ばれる行為だが、私自身やってしまおうと思う日が来るとは、思わなかった。

そう思うと、私は凄く安心した。

まだ大丈夫だ。

私は、まだ大丈夫だ。
 
私は洗面所に向かい、普段使うカミソリを鞄に入れた。

それは眉剃り様のほんの小さな黄色いカミソリ。

大丈夫だ。

これが私の今の居場所だ。

これがあれば、私は安心できる。

ダメなときは、切ってしまおう。

私にはまだ、手首がある。


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February / 20 Tue 16:24 ×

一週間がたった。

私はすっかり、雨宮君との約束を忘れ、今の生活を満喫してた。

私は放課後、皆には参加せず図書館に向かった。

読みたかった本が今日、入ったはずだ。

放課後は人もいないので、色々と便利だ。

私が本をじっくり見ていると、後ろに人の気配を感じた。

「高橋さん」

それは雨宮君だった。私は驚いて、後ずさった。

毎日暴行を受け、彼の顔は以前の面影がない。

そのため、彼は顔に包帯を巻いている。

前に男子達が無理矢理、彼の包帯をとったことがあるのだ。

その時の彼の顔は、以前の面影はまったくなく、醜く変形していた。

包帯から覗く目が私を責めているようだった。

しかし、私はきっと彼を睨みつけた。

普段彼を殴っているせいか、私は彼より上の存在だと思った。

「一体、何の用よ!?」

「手…約束だよ。頂戴」

雨宮君は、無感情にそう言った。

私は怒りを露にして、声を荒げた。

「何、馬鹿なこと言ってんの!?誰がアンタなんかに手を渡すもんですか!!!」

「約束を破る気?」

雨宮君は、静かにそう言った。

その態度に、私はだんだんと腹が立ってきた。

「私の目の前から消えてよ!!!!この変態!!!!!!!!」

私は、手に持っていた本を彼に投げつけた。

しかし、彼はひょいと避けると、私の右手首を掴んだ。

「君には本当、失望したよ…約束を果たしてよね」

「きゃああああああ!!!!何すんのよ、この変態!!!!!」

私は暴れまくった。

そして、左手で無意識に雨宮君の顔の包帯を掴み、引っ張った。

包帯から露になったのは、暴行を受け、醜く変形した顔ではなかった。

初めて会った時と同じ、端正な美しい顔だった。

私がその事に驚いていると、彼は笑った。

「手は貰うからね…」

不意に、私の視界は黒くなり、そして私の意識はなくなった。

 

私が目を覚ました時、そこは見慣れたいつもの教室だった。

雨宮君の事は、夢だったのだろうか。

私は身体を起こした。そして、すぐ恐怖に駆られた。

クラスメイトが皆、私を囲んでいるのだ。

ニヤニヤと笑いながら、ホウキを持っている者もいた。

この光景は、いつも雨宮君が皆に暴行される時と一緒である。

「い、いや!!!誰か助けて!!!」

私は叫び、助けを求めた。しかし、誰も助けてくれない。

視界の隅に雨宮君の姿を見つけた。

「雨宮君、助けて!!」

私は彼に手を伸ばし、助けを求めた。

雨宮君は初めて会った時と同じように、端正な顔に笑みを浮かばせてた。

「高橋さん、君からもらった手は大切にするからね」

雨宮君の手には、手首から切断された白い手が二つあった。

彼はそれを愛しそうに頬擦りすると、教室から出て行った。

私は自分の手を見た。

制服の袖から先、何もなかった。

両手ともなくなっていた。

皆が後ろに立って、笑っていた。

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February / 20 Tue 02:35 ×

最初は、クラスの女子皆から無視された。

誰一人、私に話しかけてくれない。

目を合わせてもくれない。

まるで私が存在しないかのように、振舞う。

原因は、きっとあれだろう。

些細なことで、リーダー格の子の自信を傷つけてしまった。

私は嫌われた。

その仕打ちとして、クラスの女子皆から無視された。

女子の雰囲気が彼らに伝わり、男子達は皆、知らんふり。

私は特に彼らと親しいわけでもないし、皆、厄介事には関わりたくないものだ。

無視されるのは、それだけで充分精神的に辛い。

ある日学校に来たら、私の上履きがなくなっていた。

クラスメイトの女子が数人、私を見てニヤニヤ笑っている。

悪意に満ちた嫌な笑みだ。

私は靴下のまま、教室に行くことになった。

何も知らない人達の奇異な視線がとても痛い。

クラスに入り、担任がその事に気づいた。

そして、私の上履きは、トイレの中に投げ込まれているのを他のクラスの子が見つけた。

無視だけで、すまなくなった。

彼女達の行動は、どんどんエスカレートしていった。

教科書がなくなるのは当たり前。破かれることも当たり前。

机には酷い言葉が書かれているのも。

下駄箱の中に、ゴミが入っているのも。

いつか教室に入ったら、私の机も椅子もなくなったいるのではないかと、私は怖い。

彼女達は、私の心に突き刺さるような言葉ばかりいい、精神を傷つける。

 


そんなある日、私のクラスに転校生がやってきた。

男の子だった。

どこか垢抜けていて、笑顔で新しいクラスメイトを見ている。

背が高く、整った顔立ちをしている。

女子たちが一斉にヒソヒソと彼のことを話す。

担任が、転校生の名前を黒板に書いた。

雨宮凛―――凛は笑顔で、元気な声で言った。

「雨宮凛です。宜しくお願いします」

とても透明で綺麗な声だった。

担任は雨宮君に席を教えてあげた。雨宮君の席は私の隣だった。

よりによって私の隣だった。

女子達の嫉妬の眼差しをヒシヒシと感じる。

雨宮君にはわからない。

このクラスがかつて彼がいた学校のように、平穏なクラスではないということを。

きっとこれからも、もっと酷い仕打ちを私は受けるんだろう。

「初めまして。雨宮です。名前は何て言うの?」

雨宮君は席に着くと、私に笑顔で挨拶した。

美少年がすぐ傍にいることに私は緊張し、顔を俯いた。

「雨宮君、高橋さんと話すと陰気臭くなるよ~」

私が口ごもっていると、女子が言った。そして、女子達が笑った。

私は恥ずかしさと辛さで、この場から消えたいと思った。

彼が私の隣でなければ、こんなことにもならなかったのに。

私は担任も恨んだ。

けれど、雨宮君は驚いた表情で女子達を見た。

「どうしてそういう事言うの?そんなこと言っちゃダメだよ」

女子達は気まずそうな顔をして、そして私を睨み、視線をそらした。

雨宮君は少し困った顔をしながら、私を見た。

「えーっと高橋…さんだよね?とにかく気にしないほうがいいよ」

私は久しぶりに、人の温かさに触れた気がした。

お礼を言いたかったが、のどに詰まって言えなかった。

涙が出そうになり、私はずっと俯いていた。

雨宮君は、その人懐っこい性格と整った容姿で、クラスの皆から慕われた。

学校が終わるまで、彼の周りには常に人がいっぱいいた。

 

放課後。

女子達に教室に残るよう言われた。嫌な予感がした。

しかし、従わなければ、今までより酷い目に遭うだろう。

案の定、雨宮君の事で彼女達は怒っていた。

恥をかいた、と彼女達は言う。

雨宮君に近寄るな、とも言った。

今まで殴られたりしなかったが、今度は殴られたり、蹴られた。

数人に囲まれて殴るから、逃げるにも逃げれない。

さらに私の服を脱がし、恥ずかしい写真を携帯で撮られた。

痛みと悔しさと辛さが身に染みる。

彼女達は気がすんだのか、ボロボロになった私を置いて出て行った。

もう生きていけない。

生きていくのが辛い。

私は鞄からカッターを取り出した。

もう生きていたくない。

もう死にたい。

私はただ、それだけを願っていた。

手首にカッターを当て、切ろうとした刹那、誰かが教室の扉を開いた。

反射的に振り向くと、そこには雨宮君が立っていた。

どうしよう。

誰も来ないと思ったのに。

こんな姿を見られるなんて…。

どうしよう。どうしよう。

私はパニックに落ちてた。

「高橋さん」

不意に雨宮君が私の名を呼んだ。

彼は、にこりと微笑んでいる。

そして、私の元に来てしゃがむと、私の手首を掴んだ。

じっと私の手首を見ている。

「辛かったでしょう?死にたいと思ったでしょう?でもね、何も死ぬことはないよ」

雨宮君は優しく、子供をなだめるように言った。

彼の意外な言葉に、私が固まっていると、彼は優しく微笑んだ。

「僕がいじめの代わりになってあげるよ」

「え?」

今、彼はなんて言った。

いじめの代わりになる?

一体何を言っているのだろうか。理解できない。

けれど、雨宮君は穏やかに微笑んだまま。

「いじめられたくないでしょう。恥ずかしい写真もばら撒かれたくないでしょう?」

「!…どうして、それを」

「僕は何でも知ってるよ。ねぇ、いじめられたくないでしょう?」

雨宮君は再度私に問いかけた。

彼の言葉に私は頷いた。誰がいじめられて嬉しいのだろうか。

私は普通の人生を送りたいだけ。

いじめから抜け出したいだけ。

「じゃあ僕が身代わりなってあげる。そうしたら、君は明日からいじめられないよ」

「…本当に?」

私が訝しげに聞くと、雨宮君は「うん」と頷いた。

そして、私の手首を強く掴んだ。

この時、私は雨宮君を怖いと思った。

なんだか彼は、他の人とは違うのだ。

「けど、代わりに君の手を僕にちょうだい」

さっきまで優しく微笑んでいた雨宮君とは思えないほど、冷たい笑みだった。

怖い、彼は一体何を言っているんだろう。

得体の知れないものに彼がなっている気がした。

「だって君の手、とても綺麗だもん。白いし滑らかできめ細かいし。別にいいでしょ?

死ぬより手がない方がマシだと思うけど。それにもういじめられなくなるんだよ」

いじめられなくなる―――。

その言葉が私の心を揺らめかせる。

そうだ、私はさっき死のうとしたのだ。

それはいじめが原因で。

生きていくことが辛いと思ったのは、全ていじめのせい。

私は怖ろしい取引だとわかっているが、雨宮君に手をあげることにした。

それに彼の言っていることは、嘘かもしれない。

彼は、とても嬉しそうだった。

「約束だよ。いじめられなくなったら、僕に手を差し出すんだよ」

私は彼の言葉に再度頷いた。

 

次の日、私は学校に登校した。

正直、雨宮君の言うことを信じたわけではない。

むしろ、あれは夢だったのではないかと思えた。

重い足取りでクラスに入ると、私に気づいた子達が挨拶してくれた。

「おはよう、かおり!」

「どうしたの?顔色悪いんじゃない?」

私は驚いて、彼女達の顔を見つめてしまった。

いじめられる前と同じ時に私と接している。

皆、私に普通通りに接してくれたのだ。

私は嬉しかった。

雨宮君の言うとおり、私はいじめられなくなった。

私が友達と久しぶりの談笑をしていると、誰かが教室に入ってきた。

それは雨宮君だった。

一気に教室の雰囲気が変わった。

女子達がヒソヒソと彼の悪口を言うのが聞こえた。

男子の誰かが足を出し、雨宮君はつまづいて転んだ。

クラスの皆が彼を嘲笑った。

その日から、雨宮君は皆からいじめられた。

私はできるだけ、彼がいじめられている現場に会わない様にした。

彼は確かに私の恩人だ。

しかし、私にいじめを止めることなんてできない。

もし止めたりして、私がまたいじめられることを考えると怖くて出来なかった。

それに、彼自らが望んだ状況だ。私が止めても意味がない。

私は自分にそう言い聞かせた。

しかし、雨宮君が無言で私を責めているような気がした。

男子達は彼を殴ったりしていた。女子もそれに参加したりする。

放課後、彼を殴ったりするのが習慣になっていた。

 

私はいつものように、放課後すぐ帰ろうとした。

雨宮君がまたいじめられているのだ。

皆から殴られたり、蹴られたりしている。

「かおり、あんたも参加しなよ」

帰ろうとする私を女子の一人が呼び止めた。

皆が一斉に私を見る。

「かおりは、いつもすぐ帰るよね。今日ぐらい参加しなよ」

その子の言葉に皆が同調しだした。

「俺達の仲間になるのが嫌なのか?」

男子の一人がそう言った。

もし、ここで私が参加しなかったりしたら、いじめられるのだろうか。

怖かった。皆から仲間はずれにされることが、怖かった。

けれど、雨宮君を殴ることも蹴ることもできない。

しかし、女子の一人が私の腕を掴み、うずくまっている雨宮君の前に立たせた。

「かおりは初めてだから、ホウキでも持って殴っちゃいなよ」

その子は、私に無理矢理ホウキを持たせた。

「できないはずないよな?俺たち、仲間なんだから」

「そうだよ。私達、友達でしょう」

皆、口々にそう言う。

私は震えを押さえ、ホウキで雨宮君を叩いた。

不意に雨宮君が私を見た。

その目は、私を責めているようだった。

恩知らず。最低な人間だな。

目は私を責める。

気がつくと、私は夢中で彼を叩いた。

そんな目で私を見ないで。

見ないで、見ないで、見ないで。

私は悪くない。仕方がなかった。これは仕方がないことだ。

皆、私に叩かれ無抵抗な雨宮君を笑った。

雨宮君は、私が殴ったホウキがお腹に入ったのか、胃液を吐いた。

「やだーかおり、興奮しすぎ!!」

「ハハハ!!!高橋、お前最高だよ!!」

皆、口々に私を褒めた。

私はその日から、毎日、雨宮君を殴ることに参加した。

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December / 29 Fri 22:33 ×
夜九時は回っていただろう。満月が顔を出している。

楓は神社に向かっていた。昔遊んだ懐かしいあの神社に。

いつもより長く高い階段を上ると、椿が楓を待っていた。

楓を見ると笑みを浮かべる。

「楓先輩」

楓は椿の笑顔を見て背筋が凍りつくのを感じた。

いつもの椿。なのにどうして、こんなに不安になるのだろう。

「椿」

何かが違う。近づいてはいけない。本能がそう告げている。

しかし、確かめずにはいられない。

楓は怯える本能を抑え、椿に近づく。椿は不思議そうに楓を見ている。

「話って何ですか?楓先輩」

椿は一歩楓に近づいた。楓はその場で足を止めた。

呼吸を整え、後ろに隠し持っているナイフを握り締める。

椿が不意にくすっと笑った。

「もしかして、怖い?俺を殺す事が」

「えっ―――?」

楓の腹に鈍い痛みが走る。椿の顔がすぐそこにあった。

楓の手からナイフが音を立てて、地面に落ちた。

笑っている。とても嬉しそうに笑っている。

「どうして―――」

「残念だったね、楓先輩」

椿は楓の腹からナイフを抜き取ると今度は左胸に刺した。

「とっと死ねよ!!変態が!!!」

決定的な一打を与え、楓は地面に崩れ落ちた。椿は笑う。

「どうして、だって?笑わせんなよ!!このストーカーが!!!」

楓を見下ろしながら、椿は吐き捨てる様に言った。

汚物でも見るような蔑んだ瞳で楓を見た。

息絶えたのを確認して、椿は一息はいた。

そして、空を仰いだ。

さっきまでの気迫はまるで嘘の様に今はとても哀しそうな顔をしている。

「あんたが姉さんをストーカーしてたのを俺は信じたくなかった。

俺はあんたを尊敬していたから。あんたは優しくて、いつも俺達を守ってくれた。

だから、俺はあんたみたいになろうと思った。でも、カメラにあんたが写っていた。

姉さんのゴミ袋をあさる、あんたが写っていたんだ」

静かに淡々と椿は語った。

椿はまた楓―――だった物を見た。その瞳は憎悪に満ちていた。

「俺達を裏切ったあんたを俺は許せなかった!」

「椿」

「……姉さん」

木の陰から雫が出てきた。雫は静かに微笑んでいる。

楓を殺す事を計画したのは、雫の案だったのだ。

ストーカー行為に雫は精神を病み、一時入院したほどだった。

椿は決心した。絶対に楓を殺すと。雫も同じ気持ちだった。

そして、計画を実行したのだ。

雫が楓に椿を殺すように唆す。

そして、神社で待機している椿が隙をついて、楓を殺害する。

「椿、疲れたでしょう?これでも飲んで」

「姉さん……ありがと」

雫は椿に暖かい缶コーヒーを椿にあげた。缶はもう開けてある。

椿は缶コーヒーを一口飲んだ。

「椿。私ね、もう一人殺したい人がいるの」

「誰?俺が殺してあげる」

椿は雫に微笑んだ。雫も椿を見て微笑んだ。

「そう……じゃあ死んでよ、椿」

椿は自分の耳を疑った。

今、雫は何て言った?死ねと言ったのか?自分に?何故?

頭が混乱してくる。不意に椿は、苦しさに嗚咽した。

「苦しい、椿?さっきのコーヒーね、薬入れておいたの。即効性の毒よ」

雫は相変わらず微笑んでいる。椿は苦しさのあまり地面に崩れる。

「ねぇ…さ…ん……どう…し…て」

途切れ途切れ椿はそれだけ言えた。雫は、静かに微笑んでいる。

その時、椿は気付いた。

雫の笑顔はなんて綺麗で何もないのだろう―――。

「だって椿も楓君も気持ち悪いんですもの。

どうして、私にかまうの?私は一人で色々やりたいのに邪魔ばっかりする。

楓君も椿も私が他の男の子と少し話すだけで、その子を虐める。

椿はずっと私から離れてくれない。楓君は私をストーカーする」

椿は自分の意識が遠のくのを感じた。

「でもね、椿。私、貴方の事愛しているのよ。

本当よ。気持ち悪くてどうしようもない貴方だけど愛しているのよ。

だって、貴方は私なんですから。

それに一つの舞台に二人は要らないのよ。

同じ人間は二人も要らないの。椿と私は元々一つ。

椿が消えて、私は完璧になるの。どう?とっても素敵でしょう」

雫は歌うように言った。雫は笑っていた。とても美しい笑みで―――。

雫は上機嫌で神社を降りた。一度も後ろを振り返らずに。

満月が二つの死体を照らしてた。


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