怖い話?
うーん、じゃあこの話をしようか。
少しだけ怖い話。
今から五年前ぐらいの事なんだけど、俺は親友と一緒に遊んでたんだ。
で、やっぱ若いから遊んでたら普通に夜中になってね。
帰る時はもう三時を回っていたよ。
二人で色々話してて、テンションが高かったな。
その矢先だったよ。
一瞬だったんだ。ドスって重たい音とブレーキの音。
わかる?
凄い衝撃がきたんだよ。
何か物体が前方数メートルに飛んでいった。
俺は助手席に座ってて、親友が運転していたんだよ。
親友の顔がみるみるうちに青ざめてた。
すぐにわかったよ。
【人を轢いてしまった】って。
俺は反射的に車から降りて、倒れている人間の元に駆け寄った。
辺り一面血の海だった。
親友の愛車にも血がついてて、ライトなんか壊れて欠片が辺りに散らばってた。
親友の車の壊れたヘッドライトが倒れてる人を照らした時、俺は息を呑んだ。
足から骨が出てたし変な方向に曲がってた。
頭から血が溢れ、もう顔が血まみれだった。
即死だった。息してなかったんだよ、倒れている人は。
それもそうだろう。
俺達の車は百キロ以上出してたから。
夜中だと車もなくて、つい、親友もスピードをだしていたんだ。
親友が車の中でがくがく震えていた。
正直、俺の頭に【逃げる】って単語が思い浮かんだ。
けど、例え逃げてもこんだけ車の部品が落ちてれば捕まるだろう。
日本の警察はひき逃げを捕まえるのが世界で一番の検挙率だしね。
【死体を隠す】って事も考えたけど、道路は血の海。
隠しても絶対ひき逃げがあったってわかる。それに車の部品。
俺は車に戻った。親友に【警察に連絡しよう】って言う為に。
「どどどど、どうしよぅ…お、俺…」
アイツは泣いてた。俺が車に戻ってきた瞬間、凄い勢いで俺に問い詰めてきた。
その時のアイツは、本当に怖かった。
微かな希望にすがっている人間ってのは何事にも必死なんだよ。
アイツの顔は別人と化してた。
「どうだった!?生きてた?!!」
俺はアイツに気おされ、言葉に詰まった。ただ、首を横に振るしか出来なかった。
「あぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
アイツはそう叫び、頭を抱えた。
俺はアイツを落ち着かせるため、優しく声をかけた。
「警察に連絡しよう。俺が電話してやる」
アイツは俺の話を聞いているのかどうかわからなかった。
ただ、静かに泣いてた。
俺が連絡した数分、警察が来て遺体を運んだり、現場検証したり、俺も事情聴取されたり大変だった。
え?その親友はどうなったって?
ちゃんと社会復帰してるよ。でも、車はもう運転してないみたいだよ。
そりゃあ腕がないからね。事故で切断したらしいよ。
その事件以来アイツとは連絡とってない。
アイツももう思い出したくないだろうし。
あの人轢いた瞬間の衝撃と音。
人がさ、ゴミみたいに軽く飛んじゃうんだよ。
一体、アイツはハンドルからどんな衝撃が伝わってきたのかな。
俺は残念ながら助手席だったからわからないけど大体想像付く。
でも、所詮は想像。いつだって本物にかないっこない。
だから、車運転してる時、人が道路を渡ると轢いてみたくなっちゃうんだよね。
あの時、アイツはこんな風に人轢いて、こう感じたんだ。って。
今は、ちゃんと理性が制しているよ。
けど時々、本当に轢いちゃおうかなって思う。
いつ、人を轢くんだろうね、俺は。