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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
May / 04 Sat 12:17 ×
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October / 29 Mon 00:13 ×

私は人付き合いがそんなに下手な人間ではない。
そこそこ愛嬌があり、誰とでもすぐ友達になれる。

けれど、そこからがいつも問題だった。

私は人の視線が気になり、いつも人の顔色ばかりうかがっていた。

親しくなった人たちから、私は嫌われるのが怖い。

だから、親しくなると私は、友達の顔をうかがった。

彼らの些細な言葉、行動を私は、いつも真に受けていた。

そこに彼らの本心が隠れていると思っているからだ。

私はそんなことでいつも傷つき、人知れず泣いたりした。

誰もそんな私には気づかない。
 


それはツアーの日だった。

親しい友達に一ヶ月前から、私はツアーに誘われていた。

私の家は厳しく、それに一人でいるのが気が楽な私は、ツアーに参加したくなかった。

けれど、皆、熱心に、それこそ本当、毎日、私をツアーに誘うのだ。

そのツアーは、大学の英語学科が開催するツアーで、外国人と一緒に日本の田舎に遊びに行く一泊二日の旅だ。

私の友達が丁度、英語学科の生徒で開催者の一人でもあった。

彼らの熱心さに結局私は折れ、母を必死に説得し、なんとか参加することができた。

その時の彼らの喜びようといったら…皆、とても喜んでいたものだ。

私もそんな彼らの笑顔が見れて、嬉しくて一緒に笑った。


 
ツアーの集合場所は大学だった。

私は朝から早起きし、バッグの中身を準備し、大学に向かった。

ちょうどの時間についたので、そのまま皆と一緒に、バスに乗り込んだ。

ツアー参加者は、全部で六十人ほどだった。意外にも多く集まり私はびっくりした。

遅刻する人間が何人かいて、おかげでバスの出発は予定より三十分遅れた。

バスの中では、ビンゴゲームなどをして遊んだ。

先にレストランで昼食をとり、目的地の田舎について、皆、自然を満喫した。

そこまでは私もそこそこ楽しめた。

けれど、夜からが問題だった。

私たちが泊まっている場所は、その田舎で一番綺麗な旅館である。

食事もおいしく、部屋一つに温泉があるという豪華さである。

ただしそれは、一番高い部屋のことだ。

私は運良く、ビンゴゲームでその部屋を当て、皆に羨ましがられた。

夕食が終わった後、皆で飲み会を開催することになった。

私はお酒が飲めないので、飲み会には参加したくなかった。

なぜなら、私はお酒を飲むと、すぐ吐いてしまうからだ。

けれど皆、私をほぼ強制的に参加させた。

皆が楽しくお酒を飲む中、私は一人でウーロン茶を飲んでいた。

私だけ取り残された感じがして、とても寂しかった。

けれど、皆、そんな私に気づかず、わいわいとお酒を飲んでいた。

誰も私には話しかけてこない、傍にいてくれない。

皆、後輩や先輩方の下に行き、私と言う存在を感じていないようだった。

あまりの惨めさと寂しさに私は、一人部屋を抜け出し、自分の部屋で持ってきた小説を読んだ。

ツアーに小説なんか持って来るつもりはなかった。

ただ、買った小説をまだ読んでいないから、もしかしたら読めるかもしれないと思ったのだ。

けれど、今は小説に救われた。

もし、小説がなかったら、私は何をしてれば良かったのだろう。

一人であのつまらない宴会にいなければならなかったのだろうか。

そう考えると、私はあまりの惨めさに泣けてきた。

家に帰りたいと切実に願った。


 
気づいたら、私は寝ていた。

起きた時はもう朝で、時計を見たら、もう少しで朝食の時間だった。

私は急いで身支度を整え、食堂に向かった。

そこには数人のツアー参加者しかいなかった。

皆、昨日の酒で酔いつぶれ、まだ起きていないのだ。

私は一人で食事をとった。

その状況がまるで、私の心のようにとても寂しいものだった。

皆、昨日の宴会の余韻でぐっすり眠っているのだろう。

私はそんな中にも入れず、皆と楽しむこともできず、一人取り残されている。

なぜ、こんなところに来たんだろう。

食事中は、ずっとそれだけ考えていた。

私なんて本当は必要ない。

私が参加した意味は一体何なんだろう。

皆にとって私は一体…

そう考えていくと、どんどん悲しい気持ちになり、私は泣きそうになった。

急いで朝食をすませ、私は部屋に戻った。

そこで私は人知れず泣いた。

その間、私の携帯は鳴らないままだった。

 

その後のツアーはまったく楽しめなかった。

皆、私に話しかけてこなかった。

おのおのが自分のことでいっぱいで楽しんでいた。

私が暗いせいなのかもしれないが、なぜ、ここまで、皆、私を放置するのだろう。

本当は皆、私が嫌いなのではないだろうか。

そうでなければ、皆、こんなことしない。

私はこの状況がある種、一種のいじめのように思えてきた。

けれど、本人達は、まったくそんなことに気づいていないのだ。

彼らは新しい友達を作ることで大変なのだ。

私と言う存在を忘れて。

友達なんて本当はいなかったんだ。

誰も私の事を 気にかけていないのだ。

その状況が余計、私を暗くした。

けれど、私もそれなりに頑張って笑顔を作り、皆に話しかけたりした。

だが、友達の一人が私の暗い態度が気に障ったのか、不機嫌だった。

そのせいで、私は余計、家に帰りたいと思った。

私は、帰りのバスでは泣いていた。

けれど、誰一人気づいてくれなかった。

たとえ、気づいたとしても彼らは、何もしてくれないだろう。

何も。


 
家に着いたとき、私は本当に嬉しくて、泣いた。

このツアーで、私はずっと泣いてばかりだ。

悲しくて泣いているのだ。

私の価値がわかったような気がした。

大して大切な存在ではない、と直接言われているような気がした。
 
明日から、また彼らに会う。

彼らは口々に「昨日のツアーは、楽しかったね」と話すだろう。

私のことなんて気にかけず、泣いていたことなんて知らず。

結局、私は彼らの友達にはなれなかったのだ。

彼らにとって私は、ペットかなんかなのだろう。

信頼していたものに裏切られた感じがした。
 


辛い時、私はいつも髪を切った。

女は失恋すると、髪を切るとよく言われている。

その理由は、私的に、髪を切ると新しい自分になれるからだと思う。

私は今の自分が嫌いな時に、よく髪を切る。

新しい自分になりたい時に、髪を切る。

けれど先月、私は失恋して髪を切った。

私にとって、いや、女にとって、髪を切るというのは、自分の心を整理させるための、儀式のようなものなのだ。

けれど、今、自分でわかるほど、私は情緒不安定だ。

私は一人ぼっちだ。

一人なのだ。

沢山の人に囲まれているのに、この孤独感。

なんて恐ろしいものなんだろう。

人が怖い。

友達だと思っていたこの人達が怖い。

強い自分になりたい。新しい自分になりたい。

けれど、もう切る髪がない。

儀式ができない。

手っ取り早く、気持ちを切り替えるための儀式ができない。

何を切ればいいのだろう。

一体、何を切れば。


 
不意に目に入った左手首。

白い肌にうっすらと青い血管が浮き出ている。
 


ああ、まだ切るものはある。

手首を軽く切ろう。

うっすらと切ってみよう。

世間ではリスカと呼ばれる行為だが、私自身やってしまおうと思う日が来るとは、思わなかった。

そう思うと、私は凄く安心した。

まだ大丈夫だ。

私は、まだ大丈夫だ。
 
私は洗面所に向かい、普段使うカミソリを鞄に入れた。

それは眉剃り様のほんの小さな黄色いカミソリ。

大丈夫だ。

これが私の今の居場所だ。

これがあれば、私は安心できる。

ダメなときは、切ってしまおう。

私にはまだ、手首がある。


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