「神楽椿(かぐらつばき)です。よろしくお願いします」
とある有名私立高校。この高校に一般人はほぼ入学できない。
なぜなら、ここは社会的地位が高い者、いわゆる上流階級の子息が入学する金持ち専用高校だからである。
完璧な環境と設備。有名デザイナーが手がけたと言われる白い制服―――それだけ色々と金を使う。
しかし、極一部に一般人がいる。そういう生徒は、頭脳が高いなどの【特別】な生徒だ。
特別な生徒の場合に限り、授業料を減免してくれる。
そんな高校に転校してきた少年―――神楽椿は自己紹介で必ず言う台詞を言った。
椿は女の様な綺麗な顔立ちだった。そして、肌は雪のように白い。
痩身で身長が高く、足が長い。一目でクラス皆の目を引いた。
教師が椿の事をクラスに伝え終わり、椿は自分の席に向かった。
一番後ろの窓際の席。椿は静かに椅子を引き、座った。
隣に座っている女子の視線や担任の話を無視して、窓からの景色を見た。
広いグラウンド。椿はその広過ぎるグラウンドを見つめた。
何処かのクラスの男子がサッカーをしている。かなり、盛り上がっているようだ。
休み時間を告げる鐘が鳴った。と、同時に椿を囲むクラスメイト。
口々に椿に問いを投げかける。
「神楽ってあの、【神楽財閥】か?」
「ねぇ、前はどこの高校なの?」
「何で転校してきたんだ?」
椿は無言で席を立った。一瞬、クラスメイトがすくんだ。
冷たく一瞥すると、椿はにこりと微笑んだ。
「悪いんだけど、用事があるから……失礼するよ」
椿はクラスメイトの間ををすり抜け、教室を出て行った。
椿は三年A組の教室の前にいた。扉を開き、目的の人物を探す。
その人物はいた。窓際の近くに友達とニ、三人で話ている。
椿は迷わず、その人物に向かった。椿はとびっきりの笑顔でその人物に話し掛けた。
「今日和。楓先輩」
「雫?」
声をかけられた相手は、驚いた表情で椿を見た。
「弟の椿です。先輩、お元気そうですね」
椿はにこりと微笑み、楓に会釈した。
黒岩楓(くろいわかえで)。童顔で背が低く、年より若く見える。そのせいか、椿の方が年上に見えた。
楓はそんな自分の顔を嫌っていたが、女子の間では人気だ。いわゆる可愛い系の少年だ。
その上、優しく愛嬌もあるのだから人気が出ないわけがなかった。
楓とは親ぐるみの付き合いで、小さい頃から知っている。しかし、三年前、椿達は引っ越した。手紙のやり取りなどはしていたが、会う事はなかった。
「ご、ごめんね。雫と間違えて……久しぶりだね、椿。元気だった?」
楓は顔を赤らめ、椿に謝った。
その様子を、椿は冷たい眼差しで楓を見た。そして、微笑んだ。
「今日こっちに転校してきたんです。よかったら、今日家に寄りませんか?姉さんも喜ぶと思うんで」
「えっ?雫も一緒に転校したんじゃないの?」
その問いに椿の顔が曇った。そして、重い口を開いた。
「姉さんが……雫姉さんが体調を崩して今、寝たきりなんです。それで、先輩さえよければ今日、姉さんに会ってくれませんか?」
「そうか……雫が……」
楓はしばし考え、頷いた。
「良いよ。俺でよければ」
「有難う御座います!俺帰り、校門で待ってますね。それじゃ、失礼します」
椿は楓に一礼し、教室を出て行った。
「せいぜい、喜んでれば良いさ……」
椿は小さく吐き捨て、自分のクラスに急いで戻った。
放課後、椿と楓は一緒に帰っていた。
普段なら楓には迎いの車が来るのだが今日は椿と一緒に帰る為、断ったのだ。
楓は、そわそわしていて落ち着きがなかった。
正直、三年ぶりに会った椿がまさか、こんなに成長するとは思っていなかったからである。
三年前、家が近くよく椿の姉【雫】と三人で遊んだものである。その頃の椿は、優しいが弱々しい少年であった。
しかし、今はそんな弱さを感じられない。雫も変わったのだろうか。
「先輩、落ち着きがないですね」
「えっ?そうかな。久しぶりに椿に会ったものだから少し緊張しちゃって」
楓は照れくさそうに笑い、顔をうつむけた。椿は冷ややかな瞳で見ている。
「姉さんも先輩に会いたがってますよ。ああ、もうすぐ見えてきますよ」
椿が二階建ての家を指差した。普通の一軒家である。
「ここが家です。今開けるんでちょっと待ってください」
椿は玄関のドアに鍵をさし、開いた。中は薄暗く人の気配を感じない。
「どうぞ。上がって下さい」
椿は靴を脱ぎ、家の電気をつける。家は暖かいオレンジの光に包まれた。
「お、お邪魔します」
楓はいそいそと靴を脱ぎ、家に上がる。結構広い。楓が家を見回していたら、椿が階段を上がっていってしまった。
楓は慌てて後を追った。階段を上る音が響く。二階に上がると、椿が一番奥の部屋の前に立っていた。
「遅いですよ、先輩」
「先に行かないでよ、椿~」
楓は少し息を切らしていた。思ったより、緊張しているようだ。手が汗ばんでいる。
椿は部屋を軽くノックし、部屋に入った。楓も後に続く。
「ただいま、姉さん」
部屋はとても綺麗で、ぬいぐるみや花柄のインテリアが置いてある。
置くにベッドがあり、そこに少女がいた。さっきまで本を読んでいたのか手元に閉じた本がある。
椿と見間違うほどの美しい少女だった。椿との違いは少女の方が髪が長く、痩せている。病人のように顔色が悪い。彼女が椿の姉「雫」である。
椿は雫のベッドのところに行く、隣にしゃがんだ。楓も後を追う。雫は笑顔で椿を迎えた。
「お帰りなさい、椿」
「姉さん、楓先輩が来てくれたよ」
「久しぶりだね……雫」
楓は精一杯の笑みを浮かべ、椿と同じようにしゃがみ込む。
雫は驚いた表情をし、恐る恐る楓に声をかけた。
「……楓君?本当に?」
「本当だよ。雫、身体大丈夫?無理しないでね」
「嬉しい……私は大丈夫よ……」
そう言うと雫は両手で顔を抑え、泣き出した。椿と楓は顔を見合わせ笑った。
「姉さんは泣き虫なんだから……」
椿と雫は一卵性の双子である。普通に考え、性別の違うもの同士はありえない。
しかし、人間の身体は今だ20%ほどしか解明されておらず、何が起きるのかは予測できないのだ。
極稀な確率で雫と椿は生まれた。雫のほうが椿より感受性が強く、椿は雫より運動神経が良い。
どちらかが足りないものを持って補っている。
「雫、泣かないで。昔とちっとも変わらないね」
楓は優しく、雫の髪を撫でた。三人は昔話に花を咲かせた。
時計が七時を告げ、楓は帰り支度をして椿の家を出て行った。
最後まで名残惜しそうだった。
「姉さん、大丈夫だった?」
椿は雫のベッドに頭を預けた。雫が椿の髪を撫でた。母のように椿を慈しむ。
「私は大丈夫……彼はなんとも思っていないようね」
月光が雫を照らす。口元には微笑を浮かべている。雫は美しかった。誰もが目を奪われるだろう。
「そうだね。俺はアイツを許さない……絶対に」
椿は歯軋りした。自然と手が拳になっている。
「ありがとう、椿」
「俺が姉さんを守るよ。だから、安心して……俺は姉さんを愛しているから」
椿はそう言うと、瞳を閉じた。
「ええ。私も椿を愛しているわ……」
雫は微笑んでいる。その瞳には、感情というものはなかった。
数日後、学校の昼休み。楓は椿を尋ねた。椿は窓際の席で、同級生達とお弁当を食べていた。
女子たちが楓の存在に気づき、騒ぎ出す。椿も楓に気づいた。
楓は女子なんて眼中にないのか、椿の元による。椿は箸を置き、微笑んだ。
「こんにちわ、楓先輩」
「ごめんね、お弁当食べてる時に来て」
椿が楓をチラッと見た。その瞳には軽蔑の光が含まれている。
「気にしないで下さい。で、何の用ですか、先輩?」
椿はにこっと微笑み、楓に聞いた。楓が照れながら笑った。
「明日、雫暇かなぁって思って」
「さぁ……姉さんに何か?」
椿の表情が変わった。疑るような瞳で楓を見た。
しかし、楓は気づいていない。楓は頬を少し紅くしている。
ただ、雫の事しか考えていないのか、椿を見ていない。
楓は毎日のように椿の家に足を運ぶ。椿は気をつかってか、いつも何処かに姿を消す。
楓はそんな椿に感謝の気持ちでいっぱいだった。そのため楓は、椿に雫について色々相談する。
「そ、そのう、あ、明日」
「姉さんとデートするつもりですか?」
椿にさらっと言われ、楓は顔を紅くした。自分の顔がとっても熱いことがわかる。
「ひ、久しぶりに会ったし、どこか遊びに行きたいなぁって……」
口をもごもごさせながら楓は言った。言葉の最後らへんはもう聞き取れない。
椿は声をあげて笑った。椿が声をあげて笑うのは珍しい。普段、口元しか笑わない。
「わ、笑うなよ!」
「あー、オカシ。でも、俺は姉さんと出かける事に賛成できませんね」
椿が突然、真顔になった。瞳が冷たく輝く。椿の気迫に押されてか、楓がびくっと身体を震わせた。
「姉さんはあの通り身体が弱いんです。遠出なんかされたら倒れます」
椿は吐き捨てるように言った。楓は黙った。椿の言うとおりだからだ。
雫は身体が弱いから、学校にも通えない。それを遠出させる方がおかしい。
楓は自分の事しか考えていない事を思い知らされ、自分を呪った。
椿がくすっと笑った。なんて冷たい笑みなのだろう。
「でも、姉さん、楓先輩の家に遊びに行きたいって言ってましたよ。
楓先輩の家って結構近いですよね。それなら、姉さんも心配ないですし」
楓はその言葉に救われ、顔をあげた。優しい笑顔で椿は言った。さっきの冷笑はまるで嘘のようだった。
「でも、変な事はしないで下さいよ?」
「するかぁ!!」
楓が顔を赤くしながら反論した。椿はまた声をあげて笑った。
「そんなにムキにならないで下さいよ。まぁ、姉さんと相談して決めてくださいね」
「そうだね。じゃあ、もう行くね。お昼邪魔してごめん」
「別にいいです。気にしてませんから。じゃあ、また」
楓は椿に手を振って、教室を出ていた。椿も笑顔で見送った。
楓の姿が見えなくなると、椿はくすっと笑った。
「せいぜい浮かれてればいいさ……」
とある有名私立高校。この高校に一般人はほぼ入学できない。
なぜなら、ここは社会的地位が高い者、いわゆる上流階級の子息が入学する金持ち専用高校だからである。
完璧な環境と設備。有名デザイナーが手がけたと言われる白い制服―――それだけ色々と金を使う。
しかし、極一部に一般人がいる。そういう生徒は、頭脳が高いなどの【特別】な生徒だ。
特別な生徒の場合に限り、授業料を減免してくれる。
そんな高校に転校してきた少年―――神楽椿は自己紹介で必ず言う台詞を言った。
椿は女の様な綺麗な顔立ちだった。そして、肌は雪のように白い。
痩身で身長が高く、足が長い。一目でクラス皆の目を引いた。
教師が椿の事をクラスに伝え終わり、椿は自分の席に向かった。
一番後ろの窓際の席。椿は静かに椅子を引き、座った。
隣に座っている女子の視線や担任の話を無視して、窓からの景色を見た。
広いグラウンド。椿はその広過ぎるグラウンドを見つめた。
何処かのクラスの男子がサッカーをしている。かなり、盛り上がっているようだ。
休み時間を告げる鐘が鳴った。と、同時に椿を囲むクラスメイト。
口々に椿に問いを投げかける。
「神楽ってあの、【神楽財閥】か?」
「ねぇ、前はどこの高校なの?」
「何で転校してきたんだ?」
椿は無言で席を立った。一瞬、クラスメイトがすくんだ。
冷たく一瞥すると、椿はにこりと微笑んだ。
「悪いんだけど、用事があるから……失礼するよ」
椿はクラスメイトの間ををすり抜け、教室を出て行った。
椿は三年A組の教室の前にいた。扉を開き、目的の人物を探す。
その人物はいた。窓際の近くに友達とニ、三人で話ている。
椿は迷わず、その人物に向かった。椿はとびっきりの笑顔でその人物に話し掛けた。
「今日和。楓先輩」
「雫?」
声をかけられた相手は、驚いた表情で椿を見た。
「弟の椿です。先輩、お元気そうですね」
椿はにこりと微笑み、楓に会釈した。
黒岩楓(くろいわかえで)。童顔で背が低く、年より若く見える。そのせいか、椿の方が年上に見えた。
楓はそんな自分の顔を嫌っていたが、女子の間では人気だ。いわゆる可愛い系の少年だ。
その上、優しく愛嬌もあるのだから人気が出ないわけがなかった。
楓とは親ぐるみの付き合いで、小さい頃から知っている。しかし、三年前、椿達は引っ越した。手紙のやり取りなどはしていたが、会う事はなかった。
「ご、ごめんね。雫と間違えて……久しぶりだね、椿。元気だった?」
楓は顔を赤らめ、椿に謝った。
その様子を、椿は冷たい眼差しで楓を見た。そして、微笑んだ。
「今日こっちに転校してきたんです。よかったら、今日家に寄りませんか?姉さんも喜ぶと思うんで」
「えっ?雫も一緒に転校したんじゃないの?」
その問いに椿の顔が曇った。そして、重い口を開いた。
「姉さんが……雫姉さんが体調を崩して今、寝たきりなんです。それで、先輩さえよければ今日、姉さんに会ってくれませんか?」
「そうか……雫が……」
楓はしばし考え、頷いた。
「良いよ。俺でよければ」
「有難う御座います!俺帰り、校門で待ってますね。それじゃ、失礼します」
椿は楓に一礼し、教室を出て行った。
「せいぜい、喜んでれば良いさ……」
椿は小さく吐き捨て、自分のクラスに急いで戻った。
放課後、椿と楓は一緒に帰っていた。
普段なら楓には迎いの車が来るのだが今日は椿と一緒に帰る為、断ったのだ。
楓は、そわそわしていて落ち着きがなかった。
正直、三年ぶりに会った椿がまさか、こんなに成長するとは思っていなかったからである。
三年前、家が近くよく椿の姉【雫】と三人で遊んだものである。その頃の椿は、優しいが弱々しい少年であった。
しかし、今はそんな弱さを感じられない。雫も変わったのだろうか。
「先輩、落ち着きがないですね」
「えっ?そうかな。久しぶりに椿に会ったものだから少し緊張しちゃって」
楓は照れくさそうに笑い、顔をうつむけた。椿は冷ややかな瞳で見ている。
「姉さんも先輩に会いたがってますよ。ああ、もうすぐ見えてきますよ」
椿が二階建ての家を指差した。普通の一軒家である。
「ここが家です。今開けるんでちょっと待ってください」
椿は玄関のドアに鍵をさし、開いた。中は薄暗く人の気配を感じない。
「どうぞ。上がって下さい」
椿は靴を脱ぎ、家の電気をつける。家は暖かいオレンジの光に包まれた。
「お、お邪魔します」
楓はいそいそと靴を脱ぎ、家に上がる。結構広い。楓が家を見回していたら、椿が階段を上がっていってしまった。
楓は慌てて後を追った。階段を上る音が響く。二階に上がると、椿が一番奥の部屋の前に立っていた。
「遅いですよ、先輩」
「先に行かないでよ、椿~」
楓は少し息を切らしていた。思ったより、緊張しているようだ。手が汗ばんでいる。
椿は部屋を軽くノックし、部屋に入った。楓も後に続く。
「ただいま、姉さん」
部屋はとても綺麗で、ぬいぐるみや花柄のインテリアが置いてある。
置くにベッドがあり、そこに少女がいた。さっきまで本を読んでいたのか手元に閉じた本がある。
椿と見間違うほどの美しい少女だった。椿との違いは少女の方が髪が長く、痩せている。病人のように顔色が悪い。彼女が椿の姉「雫」である。
椿は雫のベッドのところに行く、隣にしゃがんだ。楓も後を追う。雫は笑顔で椿を迎えた。
「お帰りなさい、椿」
「姉さん、楓先輩が来てくれたよ」
「久しぶりだね……雫」
楓は精一杯の笑みを浮かべ、椿と同じようにしゃがみ込む。
雫は驚いた表情をし、恐る恐る楓に声をかけた。
「……楓君?本当に?」
「本当だよ。雫、身体大丈夫?無理しないでね」
「嬉しい……私は大丈夫よ……」
そう言うと雫は両手で顔を抑え、泣き出した。椿と楓は顔を見合わせ笑った。
「姉さんは泣き虫なんだから……」
椿と雫は一卵性の双子である。普通に考え、性別の違うもの同士はありえない。
しかし、人間の身体は今だ20%ほどしか解明されておらず、何が起きるのかは予測できないのだ。
極稀な確率で雫と椿は生まれた。雫のほうが椿より感受性が強く、椿は雫より運動神経が良い。
どちらかが足りないものを持って補っている。
「雫、泣かないで。昔とちっとも変わらないね」
楓は優しく、雫の髪を撫でた。三人は昔話に花を咲かせた。
時計が七時を告げ、楓は帰り支度をして椿の家を出て行った。
最後まで名残惜しそうだった。
「姉さん、大丈夫だった?」
椿は雫のベッドに頭を預けた。雫が椿の髪を撫でた。母のように椿を慈しむ。
「私は大丈夫……彼はなんとも思っていないようね」
月光が雫を照らす。口元には微笑を浮かべている。雫は美しかった。誰もが目を奪われるだろう。
「そうだね。俺はアイツを許さない……絶対に」
椿は歯軋りした。自然と手が拳になっている。
「ありがとう、椿」
「俺が姉さんを守るよ。だから、安心して……俺は姉さんを愛しているから」
椿はそう言うと、瞳を閉じた。
「ええ。私も椿を愛しているわ……」
雫は微笑んでいる。その瞳には、感情というものはなかった。
数日後、学校の昼休み。楓は椿を尋ねた。椿は窓際の席で、同級生達とお弁当を食べていた。
女子たちが楓の存在に気づき、騒ぎ出す。椿も楓に気づいた。
楓は女子なんて眼中にないのか、椿の元による。椿は箸を置き、微笑んだ。
「こんにちわ、楓先輩」
「ごめんね、お弁当食べてる時に来て」
椿が楓をチラッと見た。その瞳には軽蔑の光が含まれている。
「気にしないで下さい。で、何の用ですか、先輩?」
椿はにこっと微笑み、楓に聞いた。楓が照れながら笑った。
「明日、雫暇かなぁって思って」
「さぁ……姉さんに何か?」
椿の表情が変わった。疑るような瞳で楓を見た。
しかし、楓は気づいていない。楓は頬を少し紅くしている。
ただ、雫の事しか考えていないのか、椿を見ていない。
楓は毎日のように椿の家に足を運ぶ。椿は気をつかってか、いつも何処かに姿を消す。
楓はそんな椿に感謝の気持ちでいっぱいだった。そのため楓は、椿に雫について色々相談する。
「そ、そのう、あ、明日」
「姉さんとデートするつもりですか?」
椿にさらっと言われ、楓は顔を紅くした。自分の顔がとっても熱いことがわかる。
「ひ、久しぶりに会ったし、どこか遊びに行きたいなぁって……」
口をもごもごさせながら楓は言った。言葉の最後らへんはもう聞き取れない。
椿は声をあげて笑った。椿が声をあげて笑うのは珍しい。普段、口元しか笑わない。
「わ、笑うなよ!」
「あー、オカシ。でも、俺は姉さんと出かける事に賛成できませんね」
椿が突然、真顔になった。瞳が冷たく輝く。椿の気迫に押されてか、楓がびくっと身体を震わせた。
「姉さんはあの通り身体が弱いんです。遠出なんかされたら倒れます」
椿は吐き捨てるように言った。楓は黙った。椿の言うとおりだからだ。
雫は身体が弱いから、学校にも通えない。それを遠出させる方がおかしい。
楓は自分の事しか考えていない事を思い知らされ、自分を呪った。
椿がくすっと笑った。なんて冷たい笑みなのだろう。
「でも、姉さん、楓先輩の家に遊びに行きたいって言ってましたよ。
楓先輩の家って結構近いですよね。それなら、姉さんも心配ないですし」
楓はその言葉に救われ、顔をあげた。優しい笑顔で椿は言った。さっきの冷笑はまるで嘘のようだった。
「でも、変な事はしないで下さいよ?」
「するかぁ!!」
楓が顔を赤くしながら反論した。椿はまた声をあげて笑った。
「そんなにムキにならないで下さいよ。まぁ、姉さんと相談して決めてくださいね」
「そうだね。じゃあ、もう行くね。お昼邪魔してごめん」
「別にいいです。気にしてませんから。じゃあ、また」
楓は椿に手を振って、教室を出ていた。椿も笑顔で見送った。
楓の姿が見えなくなると、椿はくすっと笑った。
「せいぜい浮かれてればいいさ……」
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