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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
May / 04 Sat 04:12 ×
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December / 29 Fri 22:25 ×
「神楽椿(かぐらつばき)です。よろしくお願いします」

とある有名私立高校。この高校に一般人はほぼ入学できない。

なぜなら、ここは社会的地位が高い者、いわゆる上流階級の子息が入学する金持ち専用高校だからである。

完璧な環境と設備。有名デザイナーが手がけたと言われる白い制服―――それだけ色々と金を使う。

しかし、極一部に一般人がいる。そういう生徒は、頭脳が高いなどの【特別】な生徒だ。

特別な生徒の場合に限り、授業料を減免してくれる。

そんな高校に転校してきた少年―――神楽椿は自己紹介で必ず言う台詞を言った。

椿は女の様な綺麗な顔立ちだった。そして、肌は雪のように白い。

痩身で身長が高く、足が長い。一目でクラス皆の目を引いた。

教師が椿の事をクラスに伝え終わり、椿は自分の席に向かった。

一番後ろの窓際の席。椿は静かに椅子を引き、座った。

隣に座っている女子の視線や担任の話を無視して、窓からの景色を見た。

広いグラウンド。椿はその広過ぎるグラウンドを見つめた。

何処かのクラスの男子がサッカーをしている。かなり、盛り上がっているようだ。

休み時間を告げる鐘が鳴った。と、同時に椿を囲むクラスメイト。

口々に椿に問いを投げかける。

「神楽ってあの、【神楽財閥】か?」

「ねぇ、前はどこの高校なの?」

「何で転校してきたんだ?」

椿は無言で席を立った。一瞬、クラスメイトがすくんだ。

冷たく一瞥すると、椿はにこりと微笑んだ。

「悪いんだけど、用事があるから……失礼するよ」

椿はクラスメイトの間ををすり抜け、教室を出て行った。




椿は三年A組の教室の前にいた。扉を開き、目的の人物を探す。

その人物はいた。窓際の近くに友達とニ、三人で話ている。

椿は迷わず、その人物に向かった。椿はとびっきりの笑顔でその人物に話し掛けた。

「今日和。楓先輩」

「雫?」

声をかけられた相手は、驚いた表情で椿を見た。

「弟の椿です。先輩、お元気そうですね」

椿はにこりと微笑み、楓に会釈した。

黒岩楓(くろいわかえで)。童顔で背が低く、年より若く見える。そのせいか、椿の方が年上に見えた。

楓はそんな自分の顔を嫌っていたが、女子の間では人気だ。いわゆる可愛い系の少年だ。

その上、優しく愛嬌もあるのだから人気が出ないわけがなかった。

楓とは親ぐるみの付き合いで、小さい頃から知っている。しかし、三年前、椿達は引っ越した。手紙のやり取りなどはしていたが、会う事はなかった。

「ご、ごめんね。雫と間違えて……久しぶりだね、椿。元気だった?」

楓は顔を赤らめ、椿に謝った。

その様子を、椿は冷たい眼差しで楓を見た。そして、微笑んだ。

「今日こっちに転校してきたんです。よかったら、今日家に寄りませんか?姉さんも喜ぶと思うんで」

「えっ?雫も一緒に転校したんじゃないの?」

その問いに椿の顔が曇った。そして、重い口を開いた。

「姉さんが……雫姉さんが体調を崩して今、寝たきりなんです。それで、先輩さえよければ今日、姉さんに会ってくれませんか?」

「そうか……雫が……」

楓はしばし考え、頷いた。

「良いよ。俺でよければ」

「有難う御座います!俺帰り、校門で待ってますね。それじゃ、失礼します」

椿は楓に一礼し、教室を出て行った。

「せいぜい、喜んでれば良いさ……」

椿は小さく吐き捨て、自分のクラスに急いで戻った。




放課後、椿と楓は一緒に帰っていた。

普段なら楓には迎いの車が来るのだが今日は椿と一緒に帰る為、断ったのだ。

楓は、そわそわしていて落ち着きがなかった。

正直、三年ぶりに会った椿がまさか、こんなに成長するとは思っていなかったからである。

三年前、家が近くよく椿の姉【雫】と三人で遊んだものである。その頃の椿は、優しいが弱々しい少年であった。

しかし、今はそんな弱さを感じられない。雫も変わったのだろうか。

「先輩、落ち着きがないですね」

「えっ?そうかな。久しぶりに椿に会ったものだから少し緊張しちゃって」

楓は照れくさそうに笑い、顔をうつむけた。椿は冷ややかな瞳で見ている。

「姉さんも先輩に会いたがってますよ。ああ、もうすぐ見えてきますよ」

椿が二階建ての家を指差した。普通の一軒家である。

「ここが家です。今開けるんでちょっと待ってください」

椿は玄関のドアに鍵をさし、開いた。中は薄暗く人の気配を感じない。

「どうぞ。上がって下さい」

椿は靴を脱ぎ、家の電気をつける。家は暖かいオレンジの光に包まれた。

「お、お邪魔します」

楓はいそいそと靴を脱ぎ、家に上がる。結構広い。楓が家を見回していたら、椿が階段を上がっていってしまった。

楓は慌てて後を追った。階段を上る音が響く。二階に上がると、椿が一番奥の部屋の前に立っていた。

「遅いですよ、先輩」

「先に行かないでよ、椿~」

楓は少し息を切らしていた。思ったより、緊張しているようだ。手が汗ばんでいる。

椿は部屋を軽くノックし、部屋に入った。楓も後に続く。

「ただいま、姉さん」

部屋はとても綺麗で、ぬいぐるみや花柄のインテリアが置いてある。

置くにベッドがあり、そこに少女がいた。さっきまで本を読んでいたのか手元に閉じた本がある。

椿と見間違うほどの美しい少女だった。椿との違いは少女の方が髪が長く、痩せている。病人のように顔色が悪い。彼女が椿の姉「雫」である。

椿は雫のベッドのところに行く、隣にしゃがんだ。楓も後を追う。雫は笑顔で椿を迎えた。

「お帰りなさい、椿」

「姉さん、楓先輩が来てくれたよ」

「久しぶりだね……雫」

楓は精一杯の笑みを浮かべ、椿と同じようにしゃがみ込む。

雫は驚いた表情をし、恐る恐る楓に声をかけた。

「……楓君?本当に?」

「本当だよ。雫、身体大丈夫?無理しないでね」

「嬉しい……私は大丈夫よ……」

そう言うと雫は両手で顔を抑え、泣き出した。椿と楓は顔を見合わせ笑った。

「姉さんは泣き虫なんだから……」

椿と雫は一卵性の双子である。普通に考え、性別の違うもの同士はありえない。

しかし、人間の身体は今だ20%ほどしか解明されておらず、何が起きるのかは予測できないのだ。

極稀な確率で雫と椿は生まれた。雫のほうが椿より感受性が強く、椿は雫より運動神経が良い。

どちらかが足りないものを持って補っている。

「雫、泣かないで。昔とちっとも変わらないね」

楓は優しく、雫の髪を撫でた。三人は昔話に花を咲かせた。




時計が七時を告げ、楓は帰り支度をして椿の家を出て行った。

最後まで名残惜しそうだった。

「姉さん、大丈夫だった?」

椿は雫のベッドに頭を預けた。雫が椿の髪を撫でた。母のように椿を慈しむ。

「私は大丈夫……彼はなんとも思っていないようね」

月光が雫を照らす。口元には微笑を浮かべている。雫は美しかった。誰もが目を奪われるだろう。

「そうだね。俺はアイツを許さない……絶対に」

椿は歯軋りした。自然と手が拳になっている。

「ありがとう、椿」

「俺が姉さんを守るよ。だから、安心して……俺は姉さんを愛しているから」

椿はそう言うと、瞳を閉じた。

「ええ。私も椿を愛しているわ……」

雫は微笑んでいる。その瞳には、感情というものはなかった。




数日後、学校の昼休み。楓は椿を尋ねた。椿は窓際の席で、同級生達とお弁当を食べていた。

女子たちが楓の存在に気づき、騒ぎ出す。椿も楓に気づいた。

楓は女子なんて眼中にないのか、椿の元による。椿は箸を置き、微笑んだ。

「こんにちわ、楓先輩」

「ごめんね、お弁当食べてる時に来て」

椿が楓をチラッと見た。その瞳には軽蔑の光が含まれている。

「気にしないで下さい。で、何の用ですか、先輩?」

椿はにこっと微笑み、楓に聞いた。楓が照れながら笑った。

「明日、雫暇かなぁって思って」

「さぁ……姉さんに何か?」

椿の表情が変わった。疑るような瞳で楓を見た。

しかし、楓は気づいていない。楓は頬を少し紅くしている。

ただ、雫の事しか考えていないのか、椿を見ていない。

楓は毎日のように椿の家に足を運ぶ。椿は気をつかってか、いつも何処かに姿を消す。

楓はそんな椿に感謝の気持ちでいっぱいだった。そのため楓は、椿に雫について色々相談する。

「そ、そのう、あ、明日」

「姉さんとデートするつもりですか?」

椿にさらっと言われ、楓は顔を紅くした。自分の顔がとっても熱いことがわかる。

「ひ、久しぶりに会ったし、どこか遊びに行きたいなぁって……」

口をもごもごさせながら楓は言った。言葉の最後らへんはもう聞き取れない。

椿は声をあげて笑った。椿が声をあげて笑うのは珍しい。普段、口元しか笑わない。

「わ、笑うなよ!」

「あー、オカシ。でも、俺は姉さんと出かける事に賛成できませんね」

椿が突然、真顔になった。瞳が冷たく輝く。椿の気迫に押されてか、楓がびくっと身体を震わせた。

「姉さんはあの通り身体が弱いんです。遠出なんかされたら倒れます」

椿は吐き捨てるように言った。楓は黙った。椿の言うとおりだからだ。

雫は身体が弱いから、学校にも通えない。それを遠出させる方がおかしい。

楓は自分の事しか考えていない事を思い知らされ、自分を呪った。

椿がくすっと笑った。なんて冷たい笑みなのだろう。

「でも、姉さん、楓先輩の家に遊びに行きたいって言ってましたよ。

楓先輩の家って結構近いですよね。それなら、姉さんも心配ないですし」

楓はその言葉に救われ、顔をあげた。優しい笑顔で椿は言った。さっきの冷笑はまるで嘘のようだった。

「でも、変な事はしないで下さいよ?」

「するかぁ!!」

楓が顔を赤くしながら反論した。椿はまた声をあげて笑った。

「そんなにムキにならないで下さいよ。まぁ、姉さんと相談して決めてくださいね」

「そうだね。じゃあ、もう行くね。お昼邪魔してごめん」

「別にいいです。気にしてませんから。じゃあ、また」

楓は椿に手を振って、教室を出ていた。椿も笑顔で見送った。

楓の姿が見えなくなると、椿はくすっと笑った。

「せいぜい浮かれてればいいさ……」


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