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緑に輝く木の葉っぱに、目を楽しませてくれる美しい花々。
太陽は輝いて、夜が来れば月が顔を出す。
太陽と月が入れ替わる瞬間は神秘的で、月は星と一緒に空に上り輝く。
人々はその夜空を見上げ、感銘の息をつき、そして眠りにつく。
空は毎日色んな色を出してくれる。
海は美しく澄んでいて、さざ波の心地いい音は心を癒してくれる。
大地は力強く、木々や動物を養う。
世界はこんなにも美しく輝いているのに、僕の周りの世界はどうして醜いのだろう。
金と世間の目ばかりを気にする親。
偽善に満ち溢れた笑顔を振りまく同級生。
数字にしか興味のない教師。
子供を食い物にする大人。
命をなんとも思わない子供。
僕の世界は、偽善と欺瞞に満ち溢れている。
とても、息が詰まるんだ。苦しくて苦しくて、息ができない。
だから、僕は別れを告げることにした。
朝、僕はいつもの様に起きて、顔を洗って制服を着た。
そして、居間に向かい、いつもの様に朝食を食べた。
父は新聞を読んでいる。母は、台所に立って何か作っている。
無言の食卓。夕食もそうだ。会話がないんだ。
話しかけてくる時は、いつも成績のことばかり。
悪かったら、母はわめくし、父は僕を罵る。だから、いつも成績は上位をキープしている。
そうすれば、両親はほっといてくれるから。
食べ終わった皿を片付けて、僕はいつもの様に出かけた。
もうこの家には戻ってこないよ。
振り向かない両親に、心の中でさよなら。と呟いた。
僕は学校とは反対方向に歩き出して、携帯を取り出した。
学校に電話し、今日は休むと伝えるからだ。担任は僕のことをいたく気に入っている。
なぜなら、成績はいいし、おとなしく、真面目な生徒だからだ。
電話には担任が出た。僕は具合が悪いから休むとだけ伝えた。
きっと、学校が終わった後、家に電話してくるだろう。
具合は大丈夫か?と。
母は驚いて僕の携帯にかけてくると思う。僕が学校をサボることに恥ずかしさを感じながら。
もう、使うことのない携帯の電源を僕は切った。
僕は電車に乗って、終電まで乗っていこうと思った。
財布には二万円ほど入っている。十分足りるだろう。
電車に乗って僕は景色を眺めた。
のどかな田園風景やら高層ビルだとか海とか色々な景色が飛び込んでくる。
飽きずに眺めていたら終電につき、もう夕方だった。
僕は空を眺めた。
真っ赤な夕日が美しかった。
やっぱり空は美しい。この後、月が星と顔を出すのだろう。
僕はただひたすら歩いていた。空を眺めながら。
僕は適当な高さのビルを見つけて入った。なかなか、ぼろいビルだ。
まだ夕方だから、ビルは開いてて僕は階段を使って屋上に向かった。
屋上には誰一人いなかった。
この屋上にはフェンスがなく、ちょうど僕の腰ぐらいの高さのセメントがあるだけだった。
荷物を置き、僕はそれを乗り越えた。そして、僕は落ちないように座った。
街に明かりが灯ってきた。こうやって見ると、人間の世界は美しいのかもしれない。
けれど、やっぱり夜空の輝きには負ける。
その夜は、空がとても綺麗だった。天の川のように星が沢山、輝いている。
手を伸ばせば、届きそうな輝き。世界は美しすぎる。
僕は立ち上がった。そして、夜空を見上げながら別れを告げた。
世界が僕を抱いてくれているようだ。心地いい。
瞳を閉じて、大きな音がした。
私は独りでいる方が好きだから自分で誰かに話しかけるような事はしない。
正直独りでいる時、寂しいって感じるけどやっぱ独りは気楽だ。
けれど、人というものは誰も知らない新しい環境にいると誰彼かまわず話しかけるようだ。
彼女はそんな中、私に話しかけてきた子だ。
最初、私達はぎこちなく会話した。お互い緊張していたからだろう。
毎日顔を合わすようになり、私達は仲良くなった。
彼女は可愛い子で我が侭なところがあるが、私はたいして気にならなかった。
なにより彼女といると楽しかったから。
前、彼女と二人で話した時、彼女は笑顔で私にこう言った。
「私、あなたの事を一番信頼しているよ」
正直、そう言われ嬉しかった。私も嬉しくて笑顔で返した。
彼女といる時は本当に楽しかった。
私は彼女以外にも知り合いは沢山出来た。けれど、私の一番の友達はやっぱり彼女だった。
いつも授業が終わると彼女は私を次の授業のクラスに送って行ってくれた。
ある日、いつもの様に授業が終わった。
彼女は私に笑顔で「バイバイ」っと言った。
えっ?
私はその場で凍りついた。
なぜ?いつも私を送って行ってくれたじゃない。どうしてそう言うの?
しかし、私は平静を装い、「バイバイ」と言った。
彼女は私の知らない人とクラスを出て行った。とても楽しそうに。
その日以来、彼女は授業が終わると彼女の友達とすぐ帰ってしまった。
私は一人、次の教室に行った。
独り歩きながら考えた。
私は彼女に何かしたのだろうか?
けれど彼女はいつも通りだし、授業が終わったら別の子と帰ってしまうだけだ。
私は彼女の友達に嫉妬しているのだと気付いた。彼女は私のものだと考えていたのだ。
私は己を恥じた。
彼女にだって私以外の友達がいる。私以外の友達と仲が良いのも当然だ。
私は【彼女の唯一の友達】と思っていたのだろう。なんておこがましい人間だろう。
その日、自分の醜さに気付き、私は恥かしかった。
次の日、私は彼女の友達に嫉妬は湧かなかった。
でも、私はなんとなくわかっていた。
もう彼女と一緒にはいられないだろうと。
私は知らないふりをした。
ある日、彼女は私に頼みごとをしてきた。いつもの彼女の我が侭な頼み。
別に難しい事ではなかったので、私は引き受けた。
私達は約束した。
約束当日、約束の時間になっても彼女から連絡がなかった。
彼女は【また】約束を忘れているのかもしれない。
過去にも彼女は私との約束を二回破っている。
しかも全部彼女から約束したものだ。
その度、私は怒ったが数時間後には怒りも収まっていた。
彼女も私に謝った。私はいつも許してあげた。だからいつも通りの仲になった。
けれど、今回のは前のと違った。
約束の時間が過ぎても彼女は来ないので電話をした。
「もしもし、どーしたの?」
彼女ののんきな声。私は頭を抑えた。これはすっかり私との約束を忘れている。
「……今どこにいるの?」
「今ね、家にいるの!家でDVD見てるよ~」
「そう、なんとなく暇だから電話しただけ。じゃあね」
私はそう言って電話を切った。約束を忘れている人に何か言うのもめんどくさかった。
はっきり言って彼女には腹が立つ。
しかし、腹が立っても意味がない。私はそのことをよく理解しているつもりだ。
私は「時間を無駄にしたなぁ~」と呟き、一人で買い物に行く事にした。
不意に目に止まるものがあった。
いつもよりおめかしした彼女がいた。誰かを待っているのかそわそわしている。
彼女の顔が笑顔になった。彼女の視線の先には【私の知っている男】がいた。
彼は私の男友達でもあり彼女の友達でもある。
私は彼女と彼が付き合っていると思っていたが、彼女は「あんな奴だいっ嫌い!!!」っと言って、彼と縁を切った……はずだ。
なぜ、彼女と彼は会っているのだろう。縁を切ったのではないのだろうか。
そして、彼女は彼に抱きついた。彼も彼女を抱きしめると、二人で仲良く人混みに消えていった。
私は呆然と二人を見送っていた。
私は彼女と今日会う約束をした。
さっき、彼女に電話したら彼女は「家にいる」と言った。
私の目の前で【家にいるはずの彼女】が男に会って、何所かに出かけてしまった。
これが【信頼している友達】にする事なのだろうか。
友達との約束を忘れ、嘘をつき、【縁を切った男】と二人っきりで会う……。
「ははは」
馬鹿馬鹿しくて私は笑った。乾いた笑いだった。
本当は彼女が私に嘘を付いている事を知っていた。
彼に会っていない。と言いながら密かに会っている事を。
知らないふりをしていた。彼女はいつか言ってくれるだろうと信じていた。
家に帰ろう。もう買い物なんかする気分じゃない。
さぁ、明日彼女にいつも通りの笑顔で接しよう。
彼女もいつも通り私に笑顔を向けるだろう。
私はまた一人で笑った。
次の日、私は彼女と二人っきりでいた。
いつもの事だ。彼女と一緒にいる事が日常だったのだ。
彼女が色々話す。私は相槌を打つ。
不意に会話が止まった。
「ねぇ、昨日私と約束してたよね?」
私は静かにそう切り出した。一瞬、彼女は驚いた表情をしたが、すぐ頭を下げた。
「ごめーん!!忘れてた!!!本当にごめーん!!!!」
いつもの様に必死に謝る彼女。私はにこりと微笑んだ。その笑顔に彼女はほっとした。
「昨日、私はあなたが男と一緒にいるところを見ていたんだよ」
彼女の顔はみるみるうちに青褪めた。「しまった!」とでも思っているのだろうか。
私は一気に畳み掛けた。今までの彼女に対する怒りをぶつけるように。
「しかもその男はあなたが【縁を切って二度と会っていない人】だったよ。
そういえば、私が電話した時、あなたは「家にいる」って言ってたよね?
どうしてあなたは男と二人で外に出かけていたのかな?」
彼女は立ち尽くしていた。罪悪感で胸がいっぱいなのだろうか。私には彼女の心を知るよしもない。
「ご…ごめん…嘘ついてご、ごめん」
彼女は顔を下に向けてた。涙声で彼女は言った。涙を堪えているのだろうか。
本当にどこまでも自分勝手な子。私は溜息一つ吐いた。
「でも!これには、理由があって…!!」
目に涙をため、彼女は顔を上げて私に言った。
彼女の言い訳なんかに耳を貸すつもりなんて最初っからない。
「私はもうあなたの事を二度と助けないし、会うつもりもない。さようなら」
私はそう言ってくるりと背を向けた。後ろを振り返る気なんてない。
裏切ったのは彼女の方。
私は彼女を信頼していた。だから約束も守ったし、彼女が困ればいつも助けていた。
それとも、それが私のエゴだったのだろうか?
私は私を信頼してくれる人を大切にした。
けれど、彼女は私に嘘をついた。約束を破った。私よりも男をとった。
それが悲しかったし、悔しかった。
彼女が私を次の授業に送らなくなった日からこうなる事はわかっていた。
二人の歯車は噛み合わなくなっていた。
彼女は酷い人だった。縁を切って正解だ。
けれど、何故だろう。
私は泣いていた。
彼女との楽しかった思い出ばかりが溢れてくる。
また、怒られてる。
姉が八歳の長女を怒鳴り、叩いている。
毎日、彼女は姉に怒鳴られ、叩かれる。
それでも、彼女は自分の母を愛していた。
私は、そんな光景を眺め去って行く。
自分には関係ないし、姉の家族に口を出す気はない。
姉は三年前、最初の夫と別れた。
その時、長女は五歳で姉が引き取った。
そして二年前、新しい男と再婚し、二人子供をもうけた。
新しい夫の子は、二歳と十ヶ月の二人だ。
八歳の長女は毎日、怒鳴られる。
だって、頭が悪いから。
学校の成績は、学年トップ並みに良い。
けれど、なんと言うのだろう。
行動面で頭が悪いのだ。
そう例えば、食事中、音を出して長女はご飯を食べる。
三歳のころから、姉はそれを注意してきた。
けれど、八歳になった今、直っていない。
他の事もそう。
長女は落ち着きがなく、ぺちゃくちゃ喋ってて、うるさい子供だ。
誰だってうるさい子供は煩わしい。
しかも、毎日注意しても直らないのだから、うざがられるものだ。
その事に本人は気づいているのか私はわからないが。
最初、私は長女を可哀想に思った。
何故なら、新しい父ができ、妹もできた。
母である姉も新しい父親も、妹ばかり見ている。
誰も長女を見ない。
それもそうだろう。
悪戯ばかりして、一人でギャーギャーわめく子供を誰が愛そうか?
しょっちゅう、他人の邪魔ばかりしているような子供を。
どんなに叩いても、罵っても、変わらない子供を。
私は長女が嫌いだ。今は可哀想にも思わない。
ただ、馬鹿なガキとしか思わない。
長女は用もないのに、私の所に来る。
私の私物をあさる。
私はそれが嫌いだった。
汚い手で私のものに触れること自体許せなかった。
それに、長女に何を言っても口答えばかりするから無駄だった。
三歳のとき、長女が私に唾を吐いた。
私はそれを叱ったが、ずっとキチガイみたいに笑いながらやっていた。
長女はそういう子だ。止めろと言えばもっとやるような子だ。
だから、皆、嫌いだった。
長女が愛情に飢えていることを私は知っている。
長女が私を愛しているのを私は知っている。
けれど、私は長女が嫌いだ。
愛情が欲しければ、二度と同じことをしなければいい。
愛情が欲しければ、手間のかからない子供になればいい。
愛情が欲しければ、おとなしくしていればいい。
どうして、この事がわからないのだろう?
そうやって、また馬鹿なことをして皆の気を引くつもりでも?
誰も、見ないよ。
変わらない馬鹿な子供なんか。
長女が風邪を引き弱まっている時ですら、姉は心配するどころか逆に長女を罵った。
「お前はちっとも私に似ていない!!顔も性格も何もかもあの男そっくり!!!」
私は黙って、車を運転した。さすがの私も可哀想に思えた。
長女のすすり泣く声が聞こえる。
姉は構わず、罵っていた。
二歳の次女は母である姉を見ていた。
長女を罵るだけ罵って、姉は次女に微笑んだ。
あぁ、姉さん。貴方も『あの男』と一緒ですよ。
姉さん、長女のもの覚えの悪さは貴方そっくりです。
長女の口の悪さも貴方ゆずりです。
姉も結局、馬鹿な人間だ。
最初の夫との結婚に母は反対した。なのに、結婚した。
したら、この有様。最初の夫は最低な男だった。
姉さん、貴方も十分笑いものです。
長女を罵るだけ罵って、貴方も自分の事を省みようとしない。
二歳の次女は頭がいい。
両親が自分を愛していることを知っている。
だから、八歳である長女をいじめる。
長女がちょっと反撃すれば、泣き喚く。
そして、長女は姉に叩かれる。
次女はその光景を見てる。
姉は最初、長女を愛していた。
それはもう、今の次女と三女のように。
何もかも、長女優先だった。
なのに、最初の夫と別れ、再婚したら、この扱い。
長女はいつも叩かれ役。罵られる役。
それも仕方がないさ。だって、お前がほとんど悪いんだもの。
運も悪かったんだよ。私の姉の元に産まれて。
つくづく思う。
長女は何のために、産まれてきたのか。
長女は無駄な命の一つだと思った。
可哀想に。
なんでお前は産まれてきたの?
姉さんはお前なんて、欲しくなかったんだよ。
私はそれを知っている。けれど、降ろすこともできないから。
毎日どこかで、馬鹿な親によって無駄な命が産まれているのだろう。
そう思うと鳥肌が立った。
学校の屋上から落ちたようだ。
遺書も何も残さず死んだから、自殺なのか事故なのかわからない。
警察は自殺ではなく事故だと判断した。理由は遺書がないこと。
生前自殺をほのめかす事も言っていない事。
手すりに座っていたのを誤って転落しただろうと言う事だ。
そのせいで、屋上は完璧に立ち入り禁止になった。
もちろん、その話はクラスに衝撃が走った。クラス皆でアイツの葬式に出た。
泣いた子もいっぱいいた。アイツは皆に人気があったから。
葬式の次の日には、アイツの机に花が飾ってあった。
ひっそりとアイツの代わりに置いてある花。
アイツが本当に死んだと確信させる。
その花を持ってくる子は、アイツの彼女。
寂しそうに辛そうに花を添える。
「どうして死んじゃったの……」
彼女がか細い声で呟いた。俺は何も言えなかった。
アイツと彼女はとても仲の良い恋人だった。付き合って一年は立つだろう。
アイツはいつも俺に彼女の話をしていた。
楽しそうに嬉しそうに彼女についてアイツは語っていた。
アイツは最後まで気づいていなかったんだ。
俺が彼女が好きだって事。
アイツの彼女の話を聞くたび、俺は辛かった。
日に日にアイツへの憎悪が心に溜まっていくのがわかった。
気持ちを悟られないように必死に隠してきた。
アイツへの憎悪と彼女の思い。
何度も自分に言い聞かせた。
『アイツはとても良い奴なんだ。俺よりもアイツの方が彼女に似合う』
俺はアイツの親友だから本当にそう思っていた。
思っていたのに……。
でも、結局駄目だった。
限界を突破したとき、俺は行動してしまったんだ。
屋上にアイツを呼び出して、俺は背中を押した。
アイツは相手が俺だったから全然警戒していなかった。
あっという間の出来事だった。
大きい音がした時全てが終わったんだ。俺はすぐその場を離れた。
誰も俺を疑わなかった。
「……せめてアイツの冥福を祈ろう」
俺は泣き出しそうな彼女にそう一言言った。
彼女はこくりと頷いた。
彼女のショックがでかいのは誰にでもわかった。
今の彼女には支えがないと駄目だと言う事も。
アイツの代わりに俺が彼女を支えてあげよう。
今度こそ、俺の思いは報われそうだ。
最初、梨花は高校に三日ほど突然来なくなった。そして、学校に親から連絡があった。
梨花が行方不明ということだ。担任がクラスの皆にその事を伝え、教室がざわめいた。
拓哉は圭を見た。圭は無表情だった。
梨花は今時の女子高生で、いつも元気で可愛い女の子だ。そして、圭は梨花の彼氏だ。
圭はどちらかと言うと、物静かで整った顔をしている。そのせいか同級生とあまり仲良くなかった。
頭が良くて、いつも梨花に勉強を教えてあげていた。
拓哉は圭の親友で、圭とは正反対のタイプだった。そして、よく三人で遊んだりした。
朝のHRが終わり、拓哉は圭の方に向かった。圭には動揺の色が見えない。
拓哉の言いたい事を悟ってか、拓哉が口を開く前に圭が遮った。
「おととい、警察が家に来て梨花の事を聞かれた。その日、俺は梨花と一緒に帰っていたから疑うのも自然だろう。
電話しても梨花の携帯に繋がらなかった」
「俺の方にも警察が来た。俺、部活で帰り遅かったからわからないって答えたんだ」
「そうか……アイツも人に迷惑ばっかりかけないで欲しいものだ。拓哉にまで迷惑かけて悪い」
圭はバツが悪そうに、はにかんだ。拓哉はそんな圭と違って、青ざめていた。
圭は何を考えているのか、わからない所がある。親友の拓哉ですら、わからないのだ。
「……梨花が……心配じゃないのか?」
拓哉は圭の目を見た。拓哉の目に怯えが、明らかに含まれている。
圭は一瞬驚いた表情をしたが、苦笑した。
「心配だけど、どうすることもできないだろ?」
拓哉は圭のその言葉で、背中に悪寒が走るのを感じた。
学校が終わり、放課後。
圭と拓哉は二人で一緒に帰っていた。
二人の間は無言が支配していた。
「圭……寄りたい所あるんだけど……良い?」
無言を破ったのは、拓哉だった。圭は興味無さ気だったが、頷いた。
拓哉が連れてきたのは、公園だった。誰も来なさそうな古い小さな公園。
拓哉は公園の奥にある池の前で止まった。池は底が見えないほど、濁っている。
「ここに、何があるんだ?」
圭は眉をしかめた。拓哉は圭に背を向けたまま、何も答えない。
「拓哉、黙っていないで答えろ」
苛立ちながら圭は再度、拓哉に問いかけた。しかし、拓哉は無言だった。
「一体どうしたんだ?今日のお前変だぞ」
圭は拓哉の様子がおかしい事に気づいた。いや、朝からおかしかったのだ。気づいていたが知らないふりをしていたのだ。
拓哉は何かに、怯えているようだった。
「圭……俺、知ってるんだよ」
公園に来て、初めて拓哉は口を開いた。そして、振り返った。
悲しそうな、辛そうな顔をして、圭を見ている。圭は不思議そうな顔で拓哉を見た。
「何をだ?」
「圭が……圭が……」
拓哉の声は震えていた。圭は腕を組み、苛立っている。
そして、拓哉はぼそっと言った。
「……梨花を殺したんでしょ……」
圭は無表情だった。拓哉の顔は青ざめ、恐ろしい事実を伝えるため、震える声を絞り出す。
「俺、部活で遅くなって、たまたま、ここの前、通ったんだ。
それで、なんか、知っている女の声がすると思って、圭と梨花がいて……そんで、圭が」
「拓哉、見てたのか」
圭の声は意外にも穏やかだった。一歩、足を出し拓哉に近づく。
「どうしてだよっ!!何で、何で、梨花を!!」
拓哉は圭の肩を掴み、激しく揺さぶった。瞳に涙がたまっている。
しかし、拓哉とは対照的に圭は落ち着いていた。
「落ち着け拓哉。俺は梨花が、好きじゃなかったんだ」
圭は淡々と穏やかな声で言った。まるで、それは子供をあやすようだった。
拓哉はその言葉を聞いて、動きを止めた。力なく圭の肩から手を離した。
圭は乱れた制服を整え、静かに語った。
「あの日、梨花に別れ話を持ち出したんだ」
圭は、前々から梨花に嫌気をさしていたと言う。
最初は、圭とは正反対な明るく、おしゃべりなところに梨花に惹かれた。
だが、しかし、梨花は圭にお構いなしに家に訪れ、携帯を勝手に見ては、女の名があろうものなら、圭に怒ったと言う。
その自己中心的な性格に、圭自身、疲れてしまったのだ。しかし、梨花は圭にべた惚れしていた。
そして、この公園で口論になった。圭はその事を既に予想していたので、当初の予定通り梨花を殺害した。
梨花に重りをつけ、この池に落とした。
「でも、まさか拓哉が見ていたなんて……ね」
「……圭」
拓哉は落ち着いたのか、圭を真っ直ぐ見た。そして、震えた。圭は苦笑していた。
「だからさ、拓哉。誰にも言わないで欲しいんだ」
圭は拓哉に微笑んだ。無邪気な笑みだった。拓哉は俯き、黙っている。
「俺達は親友だろ?梨花が居なくなったぐらいなんともない。これからも上手くいく」
その刹那、圭は何が起きたか訳がわからなくなっていた。
腹に鈍い激痛が走った。液体が流れる感触。圭は反射的に、赤い液体が流れる腹を押さえた。
力が抜け、地面に膝をつく。首を上げると、拓哉が泣きながら圭を見下ろしていた。
手には、赤く鈍く光るナイフがあった。
圭は全てを理解した。拓哉が圭を刺したのだ。
しかし、何故?どうして拓哉が自分を刺すのだろう。
痛みで身体が地面に沈む。
「わからない……俺にはわからないよぉ……なんで……梨花を殺したんだよ」
拓哉の声はか細く、小さい。圭は意識が遠くなるのを感じた。
しかし、決して意識を離さないよう拓哉の言葉に耳を傾けた。口から血が流れる。
拓哉は、右手で涙を拭きながら呟く。
「俺は……梨花が好きだったのに……でも、でも、圭なら……圭なら許せたのに」
その言葉に、圭は全て納得した。
拓哉は梨花が好きだったのだ。だから、梨花を殺した自分を刺したのか。
もし、その事に気づいていればこんな事にならなかったかもしれない。そんな事が頭によぎった。
もう自分は死ぬんだな。圭はそれだけ思った。
「圭……俺、もう生きていけないよ……人殺しになっちゃったよ……」
圭はもう事切れていた。拓哉は泣きながら笑っていた。自分の首にナイフを当て勢いよく切った。
鮮血がほとばしり、拓哉も地面に倒れた。
拓哉は静かに瞳を閉じた。瞼の裏に三人で楽しく過ごした光景がありありと甦ってくる。
涙が一筋、流れ落ちた。