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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
April / 20 Sun 17:21 ×
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December / 29 Fri 21:54 ×
※この話は【彼女】とリンクしています。そちらを読むとより楽しめると思います。



彼がここに来てから一週間は経つ。

彼は男にしてはとても美しい容姿を持つ青年だった。

真っ白な肌に真っ黒な髪。線も細く最初は女かと思ったほどだ。

彼はいつも、真っ白の病室で独りで鏡をずっと眺めていた。

そして、鏡の中の自分に話しかけていた。

彼は無表情だったが、私にはとても嬉しそうに見えた。

私は彼を鉄格子から眺め、ノートに彼の名前を探し、今日の日付に異常なし。っと書いた。

彼は家族から見捨てられたのだろう。

いや、ここに来る患者は皆、見捨てられている。

家族すら気味悪がって、皆、この病院に捨てていく。

家族が見舞いに来るなんて、滅多に無い。

あるとすれば、息を引き取った時だ。

誰も生きて欲しいと願っていない。

もっとも彼もここにいる患者はそんな事気づいていないが。

私は彼の部屋に入った。

彼はベッドに横になっていた。私に気づき、身体を起こした。

私は彼のベッドの横にある椅子に座った。

「やぁ、気分はどうだい?」

彼は答える代わりに、私に微笑んだ。

どうやら今日は気分がいいらしい。私は彼に何故気分がいいか、尋ねた。

「先生、彼女が俺の話を沢山聞いてくれたんです。また聞きたいって言ってました」

成る程、彼女との会話が弾んだのか。

彼は、『鏡の中の彼』を彼女と呼ぶ。彼は彼女に恋をしているのだ。

私は微笑みながら、彼の話を聞く。

彼も楽しそうに彼女のことを話す。

微笑みながら、彼が私から不意に視線を外した。

彼は鏡を見た。鏡に映っていたのは、私と微笑んでいる彼だ。

彼の笑みが凍った。凍ったまま鏡を食い入るように見つめている。

私は彼の名を呼んだ。けれど、彼は凍ったままだ。

私は彼の名を呼び、揺さぶった。

彼は正気に戻ったのか、私にしがみつき、泣いた。

何度彼に尋ねても彼は泣くだけで答えなかった。

子供のように泣きじゃくる彼から何も聞くことは出来ないと悟った私は、彼をなだめた。

彼は一時間程泣くと、疲れて眠った。頬は涙で濡れていた。

私はため息一つ吐き、他の患者を見に行った。

患者を見回るのも医師の仕事の一つだと私は思っている。

全ての患者を見回り、私は自分の部屋に戻った。

看護婦に後のことを頼み、私は白衣を脱いで、仮眠をとる事にした。


叫び声に近い看護婦の声で私は目覚めた。

どうやら彼が目覚めて、暴れているようだ。

彼は一度も暴れたりすることは無かったから、看護婦も驚いているようだ。

私は急いで白衣を着、看護婦と一緒に彼の病室に向かった。

彼は鏡に頭を打ち付けていた。鏡は割れ、彼の足元に落ちる。

彼の頭は血で赤くなっていた。

彼は私に気づくと微笑み、彼女のことを嬉しそうに話した。

正気の人間の目ではなかった。私はただ呆然と聞くことしかできなかった。

彼女の事を嬉々として語り終わると、彼は床に目を落とす。

床に散らばった鏡の欠片を不思議そうに眺め、彼は頭を抱え「うわぁーーー!!!」と叫んだ。

叫ぶ事に力を使い果たしたのか、床に倒れそうになった彼を私は支えた。

私の白衣は彼の血で汚れた。

彼の目は虚ろで、私の顔を見ると彼は笑った。

そして、そのまま瞳を閉じた。
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December / 29 Fri 21:52 ×
四六時中、一人の人間の事を考えてしまう事を『恋』と言うのでしょうか?

僕は友達に自分の気持ちを打ち上げました。

「一日中、あの人の事ばかり考えてしまうんだ」

友達は驚きました。そして、僕に真顔で言いました。

「それは『恋』だよ。その人の事を考えると胸が苦しくなったりするんだろ?」

僕は小さく頷きました。

あの人の事を考えると胸が苦しくて、僕は毎日辛い思いをしています。

友達は僕の告白が嬉しかったのか、僕の『恋』を応援すると言いました。

あぁ、そうか、これが『恋』なのですね。

一人の人間の事を考え、狂ってしまいそうになる思いを。

友達は僕に言いました。

「『恋』は先手必勝」

だから、僕は人気のない所にあの人―――貴女を呼びました。

貴女は時間通りに来てくれました。

空は真っ赤な夕暮れ時です。

僕は木の陰から、そっと貴女を見ました。

貴女は僕が来ないのを苛立っているようです。

時計と睨めっこしています。

ごめんなさい、恋しい貴女。

僕は恥ずかしがり屋だから、貴女の前には行けません。

僕はそーっと後ろから貴女に近づき、貴女の頭を思いっきり石で殴りました。

突然の事で悲鳴を上げることが出来なかった貴女。

僕は何度も何度も、貴女を石で殴りました。

気がつくと、貴女の美しい顔は血で汚れ醜く変形しています。

僕の手も赤く染まっています。貴女はもう、息をしていませんでした。

僕は荒い呼吸を整えました。

なんて清々しい気持ちなんでしょう。

例えるなら、僕の心は雲ひとつ無い澄み切った青空です。

僕はもう、貴女の事を考えません。

僕はずっと貴女を殺したくて、毎日、辛い思いをしていたのですから。

僕の『恋』はもう終わりました。

明日、友達に伝えようと思います。
December / 29 Fri 21:49 ×
蔑んで欲しい。

蔑んで欲しい。

褒め言葉や慰めの言葉はいらない。

そんなもの必要ない。

私を美化しないで欲しい。

私は綺麗でもなんでもない。

蔑んで欲しい。

蔑んで欲しい。

あなたの口から聞きたいのは、罵り言葉。

あなたの目から見たいのは、軽蔑した視線。

罵って欲しい。

罵って欲しい。

あなたが罵れば罵るほど、私は自分が汚い人間だと実感できる。

私は本当に汚いのだと実感できる。

醜く、冷たく、酷い人間だとわかる。



私は汚い。

私は醜い。



罵るだけ罵って、蔑むだけ蔑んで、軽蔑しきった目で私を見ればいい。

そうして、私はあなたを嘲笑う。



あなたも結局、私と同じ人間なのよ―――。
December / 29 Fri 21:48 ×
*この作品では君→お前、僕→私になっています。
【君が泣いた日】とリンクしてます。


私は常に悠然と雄々しく振舞ってきた。

人は皆私に気高さと強さと賢さを求めてきたのだから。

生まれついての容姿も並み以上で、そのせいもあり、人は私に色々求めたのだろう。

この若さと女の身ながら、私は一国の主になった。

一国の主になると、より人々は私に【完璧】と言うものを求めた。

私は己を演じ続けるしかなかった。

周りにいる人間は皆、浅ましく汚い人間どもだった。

この程度で私の寵愛を授かろうだなんて片腹痛い。

家臣達のほとんどが汚い者どもだったが、たった一人だけ純粋な奴がいた。

身分は低く私に会うたび、深々と頭を下げ、私を敬愛の眼差しで見ている。

それが、お前との出会いだったな。

お前を私の執事にした。

やはりお前は純粋で無垢だった。意外にも優秀で私は驚いたものだ。

そんなお前に何度、私は癒されただろうか。

けれど、お前は私を【完璧】だと思い、私を敬愛している。

私は時々、お前の前で素顔を出しそうで怖かった。

お前が求めているものは私ではなく【演じている私】だと言うことを私は理解している。

あの日、私は前王―――父に呼ばれた。

父は私に皮肉と冷たい言葉を投げつけた。私は父に認められると思っていた。

しかし、父は私を認めては下さらなかった。

思いの他、父の言葉は私の心深くに突き刺さったようだ。

私は家臣達に「決して入ってくるな」と命じ、一人部屋に篭った。

部屋の明かりを点けず、私は窓を覗いた。三日月が顔を覗かせていた。

今、この場だけは素顔の私でいられる。

私は一人、声を押し殺し泣いた。気を抜くと声が出そうだった。

いつから私は泣けなくなったのだろう。

泣く事を常に私は我慢してきた。

一国の主にふさわしい人間になるように、父に認められるようにと私は己を演じ続けた。

けれど、父は、父上は私を認めてはくださらなかった。

不意に微かな物音がした。私は反射的に涙を袖で拭い、扉に目をやった。

微かに開いた扉。まさか、誰かに見られたのだろうか。

私は走って扉を開き、廊下を見渡した。

長い廊下に走る人影―――あの後姿。見覚えがある。お前か。お前だったのだな。

おおかた、心配で私の様子を隠れて見たのだろう。

私が泣いているのを見、逃げたのか。

お前にだけは心配をかけたくはなかった。

私の泣く姿を見、お前は不安になってしまったのだろう?

私の素顔を見、民が、お前が不安になってしまう。

すまなかった。私はもう二度と素顔を見せないよ。

この夜に誓おう。私は二度と素顔を見せないと。

愛しいお前が不安になるのなら素顔を永遠に隠そう。

ただ、今だけは泣かせてくれ。

もう二度と見せる事のない素顔を今夜だけださせておくれ。


あの夜から、何故お前は時々悲しそうな顔で私を見る?

あの夜、お前は私の素顔を見て不安に思ったのだろう?

あの夜、確かにお前は不安になっていた。
December / 29 Fri 21:46 ×
この作品では【君貴方、僕私】になっています。
【あの夜確かに君は】にリンクしています。

貴方はいつも気高く賢く強く美しい方。

己に純潔な貴方を私は敬っているのです。

私のような人間は貴方の傍にはいてはいけない下賎な存在。

けれど、貴方に対する忠誠心は誰にも劣りません。

ただ貴方を遠くから見れるだけで私は幸せなのです。

貴方の為に働くことが出来て私は幸せなのです。

貴方に名を呼ばれた時、私は喜びのあまりに倒れそうになりました。

貴方はそんな私を貴方の隣にいさせてくださる。

私は夢を見ているのでしょうか。

貴方が隣にいること自体今でも信じられないのです。

貴方に書類を渡す時、私の手が震えているのを貴方は気づいているのでしょうか。

貴方の近くにいるだけで私は幸せなのです。

美しい貴方の仕草や言葉一つで私は翻弄されるのです。

不意に貴方が見せてくれる笑顔に私は嬉しく感じます。

貴方が私にだけ見せてくれる貴方の笑顔。

それが私の密かな自慢なのです。

私はもっと色々な貴方を見たいと思いました。

それは私の我が侭でしょうか。

貴方の傍で仕え、私はつくづく思います。

やはり貴方は気高く賢く強く美しい方でした。

あの日、貴方の様子をおかしく思いました。

無表情だが、何かに耐えているような辛そうな貴方の顔。

「決して入ってくるな」

貴方はそう言い部屋に篭りました。

貴方の言葉は絶対。破る者などいません。

しかし、私は貴方の事が心配で心配で……貴方の言いつけを破り、そっと部屋を覗きに行きました。

貴方に対する罪悪感が胸に込みあがります。

部屋を覗くと貴方は窓辺に立っていました。

細い肩を震わし、声を押し殺して貴方は泣いていました。

常に悠然として雄々しい貴方の震えてる肩は別の人のように思えました。

私は何故だか怖くなって、その場から走って逃げました。

それは見てはいけないものを見てしまったような感覚。

もしあの時、私に勇気があったのなら、

貴方に「何故、泣いているのですか?」と聞く事ができたのでしょうか。

貴方をこの腕で抱きしめる事ができたのでしょうか。

気高く愛しい貴方を癒す事ができたのでしょうか。

私は貴方の苦しみにその時気づきました。

貴方は全て自分の中に押し込めて、人の望む姿を演じていました。

愚かな私達はそんな事に気づかず、それが貴方の姿だと思っていました。

あの日から貴方は前よりも本当の姿を押し殺すようになりました。

あの日から貴方は変わってしまいました。

私にだけに見せてくれた、


あの柔らかな笑顔を貴方は二度と浮かべる事はありませんでした―――
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