※この作品では【君→貴方、僕→私】になっています。
【あの夜確かに君は】にリンクしています。
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貴方はいつも気高く賢く強く美しい方。
己に純潔な貴方を私は敬っているのです。
私のような人間は貴方の傍にはいてはいけない下賎な存在。
けれど、貴方に対する忠誠心は誰にも劣りません。
ただ貴方を遠くから見れるだけで私は幸せなのです。
貴方の為に働くことが出来て私は幸せなのです。
貴方に名を呼ばれた時、私は喜びのあまりに倒れそうになりました。
貴方はそんな私を貴方の隣にいさせてくださる。
私は夢を見ているのでしょうか。
貴方が隣にいること自体今でも信じられないのです。
貴方に書類を渡す時、私の手が震えているのを貴方は気づいているのでしょうか。
貴方の近くにいるだけで私は幸せなのです。
美しい貴方の仕草や言葉一つで私は翻弄されるのです。
不意に貴方が見せてくれる笑顔に私は嬉しく感じます。
貴方が私にだけ見せてくれる貴方の笑顔。
それが私の密かな自慢なのです。
私はもっと色々な貴方を見たいと思いました。
それは私の我が侭でしょうか。
貴方の傍で仕え、私はつくづく思います。
やはり貴方は気高く賢く強く美しい方でした。
あの日、貴方の様子をおかしく思いました。
無表情だが、何かに耐えているような辛そうな貴方の顔。
「決して入ってくるな」
貴方はそう言い部屋に篭りました。
貴方の言葉は絶対。破る者などいません。
しかし、私は貴方の事が心配で心配で……貴方の言いつけを破り、そっと部屋を覗きに行きました。
貴方に対する罪悪感が胸に込みあがります。
部屋を覗くと貴方は窓辺に立っていました。
細い肩を震わし、声を押し殺して貴方は泣いていました。
常に悠然として雄々しい貴方の震えてる肩は別の人のように思えました。
私は何故だか怖くなって、その場から走って逃げました。
それは見てはいけないものを見てしまったような感覚。
もしあの時、私に勇気があったのなら、
貴方に「何故、泣いているのですか?」と聞く事ができたのでしょうか。
貴方をこの腕で抱きしめる事ができたのでしょうか。
気高く愛しい貴方を癒す事ができたのでしょうか。
私は貴方の苦しみにその時気づきました。
貴方は全て自分の中に押し込めて、人の望む姿を演じていました。
愚かな私達はそんな事に気づかず、それが貴方の姿だと思っていました。
あの日から貴方は前よりも本当の姿を押し殺すようになりました。
あの日から貴方は変わってしまいました。
私にだけに見せてくれた、
あの柔らかな笑顔を貴方は二度と浮かべる事はありませんでした―――。
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