忍者ブログ
創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
April / 20 Sun 09:19 ×
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

December / 29 Fri 21:48 ×
*この作品では君→お前、僕→私になっています。
【君が泣いた日】とリンクしてます。


私は常に悠然と雄々しく振舞ってきた。

人は皆私に気高さと強さと賢さを求めてきたのだから。

生まれついての容姿も並み以上で、そのせいもあり、人は私に色々求めたのだろう。

この若さと女の身ながら、私は一国の主になった。

一国の主になると、より人々は私に【完璧】と言うものを求めた。

私は己を演じ続けるしかなかった。

周りにいる人間は皆、浅ましく汚い人間どもだった。

この程度で私の寵愛を授かろうだなんて片腹痛い。

家臣達のほとんどが汚い者どもだったが、たった一人だけ純粋な奴がいた。

身分は低く私に会うたび、深々と頭を下げ、私を敬愛の眼差しで見ている。

それが、お前との出会いだったな。

お前を私の執事にした。

やはりお前は純粋で無垢だった。意外にも優秀で私は驚いたものだ。

そんなお前に何度、私は癒されただろうか。

けれど、お前は私を【完璧】だと思い、私を敬愛している。

私は時々、お前の前で素顔を出しそうで怖かった。

お前が求めているものは私ではなく【演じている私】だと言うことを私は理解している。

あの日、私は前王―――父に呼ばれた。

父は私に皮肉と冷たい言葉を投げつけた。私は父に認められると思っていた。

しかし、父は私を認めては下さらなかった。

思いの他、父の言葉は私の心深くに突き刺さったようだ。

私は家臣達に「決して入ってくるな」と命じ、一人部屋に篭った。

部屋の明かりを点けず、私は窓を覗いた。三日月が顔を覗かせていた。

今、この場だけは素顔の私でいられる。

私は一人、声を押し殺し泣いた。気を抜くと声が出そうだった。

いつから私は泣けなくなったのだろう。

泣く事を常に私は我慢してきた。

一国の主にふさわしい人間になるように、父に認められるようにと私は己を演じ続けた。

けれど、父は、父上は私を認めてはくださらなかった。

不意に微かな物音がした。私は反射的に涙を袖で拭い、扉に目をやった。

微かに開いた扉。まさか、誰かに見られたのだろうか。

私は走って扉を開き、廊下を見渡した。

長い廊下に走る人影―――あの後姿。見覚えがある。お前か。お前だったのだな。

おおかた、心配で私の様子を隠れて見たのだろう。

私が泣いているのを見、逃げたのか。

お前にだけは心配をかけたくはなかった。

私の泣く姿を見、お前は不安になってしまったのだろう?

私の素顔を見、民が、お前が不安になってしまう。

すまなかった。私はもう二度と素顔を見せないよ。

この夜に誓おう。私は二度と素顔を見せないと。

愛しいお前が不安になるのなら素顔を永遠に隠そう。

ただ、今だけは泣かせてくれ。

もう二度と見せる事のない素顔を今夜だけださせておくれ。


あの夜から、何故お前は時々悲しそうな顔で私を見る?

あの夜、お前は私の素顔を見て不安に思ったのだろう?

あの夜、確かにお前は不安になっていた。
PR
NAME
TITLE
MAIL
URL
VOICE
EMOJI / FONT COLOR
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS
TRACKBACK URL :
ADMIN | WRITE
 
"神華" WROTE ALL ARTICLES.
忍者ブログ・[PR]
/ PRODUCED BY SHINOBI.JP @ SAMURAI FACTORY INC.