【美しすぎる世界】の続編です。そちらの方を読むと、より面白くなると思います。
クラスメイトが自殺した。
クラスで目立たない影の薄い男子だった。
成績のいい子だったから先生のお気に入りだった。
彼はいつも窓の外を見ていた。
今日は彼の葬式だ。
大人たちが悲しんでいるのに空は眩しいくらい澄み切った青だ。
クラスメイトの女子も泣いている。
彼のことを知らないくせによく泣けるものだ。
きっと泣いて自分は良い人だと思いたいんだろうな。
それにしても彼も馬鹿だ。まだ二十歳にもならずに自殺するなんて。
一体何に絶望していたのだろう?
学級長のありきたりな別れの言葉がやっと終わった。
クラスメイトが順番に彼に線香をあげに行く。
私の番が来る。
彼の顔を見てやろう。
絶望を見、自殺した人間の顔はさぞ醜く歪んでいるんだろうね。
私は線香をあげ、棺に眠っている彼の顔を見た。
私は驚いて声を上げそうになった。
そこには、初めて見る彼の笑顔があった。
美しいと言っていいほど、彼は目を閉じ、安らかに微笑んでいる。
どうして微笑んでいるの?絶望していたんじゃないの?遺書も残さず死んだみたいじゃない。
私は覚えているかぎり、記憶の中の彼を集めた。
そういえば、彼は人と関わりあうのを避けていた。
そして、時々、私たちをひどく冷たい目で見ていた。
まるで汚いものを見るような目つきで。
けれど、彼は校庭の桜が満開に咲いた時、桜を愛しそうに見つめていた。
いや、窓から眺める空も愛しそうに見つめていた。
貴方は人の世界に馴染めなかった。だから、死んだんでしょ?
貴方は純粋すぎた。死んで正解かもしれない。
私達のように、偽善の笑みを浮かべ、甘い言葉を囁き、本心では毒づいて生きていくよりは。
貴方にはそれが見えて、耐えることが出来ず、馴染めなかったから死んだ。
しょうがないよ、それが人間なんだから。慣れてしまえば楽しいものなのにね。
このあと、彼は火葬されるだろう。
彼の肉は焼けて、残るのは白い骨のみ。
その骨さえ、土に埋められ、もう会うことはないだろう。
彼とはこれで最後だ。
さようなら、純粋すぎた貴方。
気がつくと、私の頬には涙が流れていた。
もしかしたら、私は彼に恋をしていたのかもしれない。
彼は静かに微笑んでいる。