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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
April / 20 Sun 14:48 ×
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December / 29 Fri 21:20 ×

その日、俺は仕事の帰りが遅くなった。

不景気なこのご時世、サラリーマンの残業なんて当たり前でしかたがない。

俺は一人、車を運転し薄暗い帰路に着いた。

疲れが溜まっているので、自然に溜息ばかり出る。

俺はなんとなく、バックミラーを見た。

後頭部座席に女が座っていた。

俺はびっくりして、後ろを振り返った。後頭部座席には誰もいなかった。

疲れがたまって、幻覚を見たのだろう。気を取り直して、前方を向こうとした刹那、

「誰を探しているのかしら?」

助手席にはいつの間にか女が座っていた。俺は驚きのあまりブレーキを踏んだ。

「あらあら、あなた、危ないわよ。ちゃんと運転して」

俺の車はずっと走っていた。誰かが乗り込めるはずもないし、最初から俺一人しか乗っていなかった。

助手席に座っている女は、平然と当たり前のように座っていた。

俺はこの女を知っている。長い黒い髪、上品な仕草。この女が何故ここにいる?

「おおおお前、ゆゆ優貴か?」

「名前覚えていてくれてたのね。嬉しいわ」

俺の助手席に座る優貴が言った。前と変わらず穏やかな声。

「ま、まさか!忘れるわけ……ないだろう……

俺の体は震えていた。冷や汗が背中を通る。

呂律がうまく回らない。それも全て恐怖からくるものだ。

「そう。嬉しいわ……私は一時もあなたの事を忘れた事ないのよ」

優しく優貴が言った言葉はとても冷たく、俺にとって恐ろしいものだった。

「ねぇ、あなた知ってる?」

俺は「何を?」と言いたかったが言えなかった。

言葉がのどに詰まる。

優貴は話続けた。うっすらと微笑んでいるようだった。

「女は情が強い生き物なのよ」

気がつくと、俺の車は走っていた。俺の手には汗で濡れている。

「ゆ、優貴、悪かった。本当に悪いことをした」

「あなた、本当にそう思っているのかしら?裏切った人を一体誰が許すのかしら?

優貴は三年前、死んだ女だ。

優貴は世間知らずのお嬢様で俺を愛した。

でも、俺にとってそれは単なる遊びで、結局、優貴は邪魔になって俺は別れたんだ。

優貴はその後、自殺した。

なぜ、今頃優貴が俺の前に現れるんだ。

「優貴、お願いだ、成仏してくれないか?俺の事忘れてくれ、なっ?」

「あなたは本当自分勝手な人ね……ふふふ、あれだけ酷い事をしといて」

「優貴……お前は俺を殺す気か?」

俺の声は震えていた。わかっていた。優貴は最初から俺を殺す気なんだということを。

死にたくなかった。俺には今、家庭がある。妻もいる。子供もいる。

自殺の原因は俺が原因だとわかっている。けど、俺は生きたい。

「優貴頼む……本当に本当に悪かった」

俺は泣いていた。死にたくなかった。生きたかった。

俺は本当に後悔した。本当に俺は最低な男だ。

人の気持ちを考えもしなかった最低な男だ。

「本当、あなたは自分勝手な人ね……

優貴はそう言うと静かに笑って、消えた。

もしかして優貴は俺のことを許してくれたのだろうか。

気がつくと、俺はもう自宅の前までに来ていた。車を車庫に入れ、俺は車から降りた。

今までの事は全て夢だったのかもしれない。

優貴を自殺に追い込んだ罪悪感が俺に見せた幻かもしれない。

それにしても、どうしてこんなに首が痛いんだろう。

玄関の鍵を開けようとした時、俺は気づいてしまった。

玄関の扉に反射的に写った自分の姿。

そこには俺の首を絞め、笑っている優貴がいた。

「言ったでしょう。女は情が強い生き物なのよ

優貴は一生俺を離さないつもりのようだ。

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