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創作短編小説です。 基本的にダークです。 ですので、死とか血とかでます。 ホラーです。
April / 20 Sun 07:20 ×
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February / 17 Sat 00:46 ×

サヤカが死んだ。

今日は彼女の葬式だ。

サヤカは、俺の恋人だった。

サヤカは、長く生きられない身体だった。

若かった俺は、この田舎町で生涯を終えたくなかった。

俺は都会に出た。

サヤカを置いて、俺は出て行ったのだ。

サヤカにその事を告げた時、

「気をつけて、いってらっしゃい。私、待ってるから」と微笑み、送ってくれた。

俺は絶対戻って来ると行って、結婚の約束をしたんだ。

俺は都会のものに新鮮さと感動を覚え、とても楽しかった。

いつしかサヤカの存在すら、忘れていた。

しかし、それは最初だけだ。

現実とはとても非情なもので、田舎から出てきた若者に、そう簡単に仕事が見つかるはずがなかった。

日雇いのバイトで毎日を食いつなぐ毎日だった。

都会の片隅に住んでいた俺の元に、連絡が来たのだ。

サヤカが死んだと―――。

俺はこの田舎町に戻ってきた。

俺が出て行ったとき同様、何も変わらない田舎町だ。

葬式が終わった時、サヤカの母親が俺に白い封筒の束を差し出してきた。

その封筒は、切手が貼られていない俺宛のものだった。

綺麗な字で俺の名前が書いてある。封筒が少し黄ばんでいた。

「あの子があなた宛てに書いたものです。受け取ってください」

目頭をハンカチで押さえたサヤカの母親が言った。

俺はその封筒の束を受け取り、実家にある俺の部屋で開いた。

サヤカからの俺宛の手紙だった。

 

―――お元気ですか?

都会の生活には、慣れましたか?

あなたの事だから、きっと楽しい生活を送れていると思います。

私は今、この手紙を病室で書いています。

あなたが都会に行ってから、体調を崩し入院することになりました。

でも、心配しないで下さい。私は元気です。

どうか、身体を壊さないでくださいね。

時々で良いから、私のことを思い出だしてください。

私はあなたのことをいつまでも、思っています。

 

一枚目の手紙には、綺麗な字でそう書かれていた。

俺は夢中で手紙を読んでいった。

二枚目にも三枚目にも、その後の手紙も、全て俺へのサヤカへの思いが詰まっていた。

サヤカの思いが伝わってきて、俺は泣きそうになった。

なぜ、俺はサヤカを捨て、都会へ行ってしまったのだろう。

今更になって、俺は後悔した。

手紙の内容は、どんどん体調が悪くなっていることが書かれていた。

そして、手術を受けることになったそうだ。

 

―――今から手術室へ行きます。

手術が成功したら、また続きを書きます。

どうか、元気でいてくださいね。

私は、いつでも待ってます。

 

死ぬ間際になっても俺のことを思ってくれていたサヤカ。

手術は結局失敗したのだ。

それでサヤカは死んだのだ。

俺はいつの間にか泣いていた。

自分のしてきた事での後悔。

サヤカの傍にいなかったことへの後悔。

サヤカの純粋な思いに俺は泣いていた。

不意に俺は、もう一枚手紙があることに気づいた。

おかしい。

手術は失敗し、サヤカは死んだのだ。

なぜ、もう一枚あるんだ?

俺はその手紙を開いてみた。

それは今まで読んだ手紙と違い、文字が荒々しく、赤いペンで書かれていた。

―――この手紙をあなたが読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。

私は今までずっと、あなた宛ての手紙を書いてきました。

あなたへの思いを綴った手紙を。

私はあなたの負担になりたくなかったので、その手紙を送りませんでした。

手紙を書いているとき、私はあなたのことを思っているのと同時に、憎くもありました。

私を捨て、都会へ行ったあなたがとても憎い。

憎い憎い憎い憎い憎い憎い―――。

私の憎悪は止まりません。

いつまで待っても、あなたは来ない。

私の死に際になっても、あなたは来ない。

お怨み申上げます。

あなたを迎えに行きます。

約束を守ってください―――。

 

俺は首筋に冷たいものを感じた。

サヤカの憎悪を今、一心に俺は受けたのだ。

恐怖が身体を包む。

不意に俺の肩を誰かが触れた。

嫌な汗が流れる。

後ろを振り向いてはいけない。

本能がそう告げていた。

振り向かなくても、俺にはわかった。

きっとそこには、俺が想像している人間の顔があるのだろう。

しかし、俺は振り向いたのだ。

 

「お怨み申上げます、あなた」

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