ある青い空の昼下がり。
少女が一人、人気のない公園のベンチに座っていた。
その少女は、とても美しく、どこか艶かしい雰囲気をもっていた。
スーツを着た青年が、少女の元に歩んできた。
「隣に座っても、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
少女は微笑んだ。
青年は小さくお辞儀をすると、少女の隣に座った。
身のこなしの美しい、柔和な顔立ちをした青年だった。
「お兄さん、ここから見える館のお話をご存知?」
少女は口元に笑みを浮かべ、ここから見える館を指差した。
その館はとても古く、不気味な館だった。
青年はそれを見つめ、そして首を横に振った。
少女は面白そうに笑った。
「…あの館はね、呪われているの」
「呪い?」
愛らしい少女の口から出た言葉に、青年は驚きを隠せなかった。
青年の反応が面白いのか、少女は面白そうに笑った。
そして少女は、静かに語りだした。
「ずっと、昔。あの館には、ある男が住んでいたの」
その男は両親をなくし、十はなれた妹と二人で住んでいたわ。
男の父は、戦争で戦死し、母は病気で亡くなったの。
男はとても賢く優しく、妹をとても可愛がっていたの。
二人は、とても仲のいい兄妹だった。
けれど、悲劇が起きたの。
それは妹の十二回目の誕生日。
その晩、男は妹の首を絞め、殺したの。
そしてすぐに、ナイフで自分の首を切って自殺したわ。
どうして、男はそんなことしたかって?
それは男が、妹に恋をしていたからよ。
そのことに男は悩んで、気が狂いそうになったのでしょうね。
美しく成長していく妹を愛さずにはいられないことに―――。
どうして、私がこの話を知っているかって?
フフフ…ここら辺に住んでいる人なら、皆知っている話よ。
「それ以来、あの館からは男の幽霊が出るんですって」
少女は語り終えると、目を伏せた。
青年は、しばし館を見つめ、重い口を開いた。
「君は、男の幽霊を見たことある?」
「私?見たことないわ」
少女は意味ありげに微笑んだ。
青年は少女を見た。
絹のような黄金の長い髪。
白く透けるような肌。
人形のように整った愛らしい顔。
大きな瞳は、透き通る青。
愛らしい薄桃色の唇。
小さな身体。
この少女は美しいと青年は、思った。
そして、青年は右手で少女の髪を掴み、匂いを嗅いだ。
青年の突然の行動に少女は、驚き、怯え青年を見た。
「な、何?」
青年はクスリと笑った。
「君はとても綺麗な子だね…髪は綺麗でいい匂いがする」
「お兄さん…?」
青年は左手を伸ばし、怯えている少女の顔に触れた。
右手はしっかりと少女の髪を掴んでいる。
逃げるにも逃げれない少女は、身を縮め、できるだけ青年から離れるようにする。
無駄なことだとわかっていても、少女はそうした。
「肌も白いし、瞳はとても綺麗だ」
青年はうっとりと少女の顔を見ると、笑った。
顔に触れた手は、少女の首へと移動する。
「君の話してくれた話には、間違いがあるよ。
男は妹に恋をしていたわけじゃない。
可愛らしい妹が成長していくことが、許せなかったんだ。
だから、これ以上成長させないために、殺したんだよ」
言い終わるやいなや、青年は少女の首を両手で絞めた。
悲鳴も上げられず、少女は必死に手足をばたつかせ、抵抗したがそれも空しく終わった。
少女が事切れるのを確認すると、青年は愛しそうに少女を抱き上げた。
そして、悲しそうに呟いた。
「皆、幼い時は純粋で無垢で愛らしいのに、成長すると醜くなる…
そんなこと耐えられるはずがない…」
青年は、死体になった少女の頭を撫でた。
愛しそうに何度も、何度も。
青年はベンチに背をむけ、歩き出した。
そして、少女に微笑んだ。
「さぁ、家に帰ろう。永遠に僕と一緒にいよう」
良かったら、日本ブログ村→ http://novel.blogmura.com/novel_horror/ を押して下さい。
PR
TRACKBACK URL :